気になるキーワード「帝王切開」#02
帝王切開当日の手術の流れと術後の過ごし方を徹底解説
帝王切開当日の手術の流れと術後の過ごし方を徹底解説
前回の記事では、帝王切開の基本的な仕組みや、帝王切開になる要因にはどういったケースがあるかについて解説しました。
本記事では、実際に手術の日はどのような流れで進むのかを解説していきます。初めての妊婦さんにもわかるよう、できるだけ時系列に沿って、具体的なイメージが湧くように解説していきます。意外と知られていない、手術前の食事制限などについても触れていきます。手術の日を少しでも安心して迎えられるよう、一緒に整理していきましょう。
帝王切開の手術の流れ
私たちがドラマで見るお産の風景は、経腟分娩であることが多く、帝王切開でのお産は多くの人にとって未知の世界です。
ここでは、入院から退院までをできるだけ時系列に沿ってご紹介します。
手術前日までの準備
入院のタイミング
予定帝王切開では、前日もしくは当日朝に入院しますが、病院によっては、母体の合併症がある場合や検査の都合で2〜3日前から入院することもあります。
緊急帝王切開の場合は、陣痛中や破水後にそのまま入院し、準備を短時間で整えて手術に臨みます。
術前検査
・血液検査:貧血や感染症の有無、血液型の再確認など。輸血が必要になる可能性を考慮します。
・心電図・胸部レントゲン:麻酔の安全性を確認するために行う場合もあります。
・超音波検査:赤ちゃんの位置や羊水量を再度チェック。
手術説明と同意
担当医から、手術の手順・リスク・麻酔方法について説明があります。ここで疑問や不安を率直に質問しましょう。同意書にサインをして、正式に手術を受ける準備が整います。
緊急帝王切開の場合は、お母さんや赤ちゃんの命や安全のために一刻を争うので、経腟分娩の前にあらかじめ説明をすませて同意をとっておき、いざという時は口頭で同意をとるのが一般的です。
お産の進行度合いによっては帝王切開になる可能性と、その場合のリスクについて説明がなされます。
食事・水分制限
手術中の誤嚥(胃の内容物が気管に入ること)を防ぐために、手術前の絶食・絶飲が指示されます。通常は前日の夜から固形物を食べず、当日は水分も控えるように言われます。
感染予防
・抗菌薬の点滴:手術部位の感染を防ぐために、切開する前に投与されます。
・剃毛(毛を剃る処置)は必ずしも必要ではなく、必要に応じて必要最低限の範囲のみ行われます。
手術当日の流れ
手術室へ移動
手術着に着替え、点滴を受けながら手術室へ。広い部屋と明るい照明に圧倒される方も多いですが、周囲には産科医・麻酔科医・助産師・看護師など多くの専門職が待機しています。
麻酔
標準は脊椎くも膜下麻酔(背中から注射して腰から下の感覚をなくす)です。長時間に渡って赤ちゃんが出てくるまでの時間をカバーする無痛分娩と違って、帝王切開自体は、1時間くらいで終わる手術なので、効きが早く持続時間が短めの脊椎くも膜下麻酔で十分ですが、術後の痛みのコントロールのために硬膜外麻酔を併用するケースもあります。状況に応じて、全身麻酔が選ばれることもあります。
お母さんの意識はあり、赤ちゃんの産声を聞くことができます。痛みは感じませんが、「押される」、「引っ張られる」といった感覚は残ります。麻酔が効いてから、導尿(カテーテルを通す処置)を行います。
手術開始から赤ちゃんの誕生まで
下腹部を消毒し、清潔な布で覆い、いよいよ手術のスタートです。皮膚切開〜子宮の切開まではほんの数分。赤ちゃん誕生までは10〜15分ほどです。

胎盤娩出と縫合
赤ちゃんを取り出した後、胎盤をとりだし、残存物がないことを確認してから、子宮とおなかの壁を丁寧に閉じていきます。縫合は20〜60分程度かかります。このとき、癒着予防のために洗浄をしたり、止血のために圧迫したりすることがあります。
終了後は回復室へ
手術が終わると、血圧や脈拍、出血量のチェック、痛み止めの調整や授乳や母子対面(施設によってはすぐに抱っこできることも)をすませ、問題ないことを確認して回復室へ移動します。
帝王切開のメリットと知っておきたいリスクについて
帝王切開はおなかを切ることもあって「怖い手術」と思われがちですが、実はメリットもあります。一方で、外科手術である以上、避けられないリスクも存在します。ここでは、良い面と注意すべき面の両方を、できるだけ具体的に整理してみましょう。
お母さんと赤ちゃんにとってのメリット
計画的に出産できる安心感
予定帝王切開では、手術日を事前に決められるため、心身の準備を整えやすいのが特徴です。遠方からの通院や、家族の仕事・育児のバックアップ体制を調整しやすいというメリットもあります。
母子の命を守る「緊急時の切り札」
お産の途中で赤ちゃんの心拍が下がる、出血が増えるなどの異常があったときに、速やかに赤ちゃんを娩出することができるのは帝王切開ならでは。これは経腟分娩にはない、非常に大きな利点です。
産道へのダメージが少ない
帝王切開では赤ちゃんが産道を通らないため、骨盤底(膀胱や子宮を支える筋肉や靭帯)へのダメージが少なくすみます。結果的に、出産後の尿もれなど骨盤底のトラブルへの影響が少ないこともあります。
知っておきたいリスクと合併症
一方で、帝王切開は外科手術であるため、注意すべきリスクもあります。ここでは代表的なものを整理します。
出血や感染症
・出血:経腟分娩に比べて輸血が必要になる可能性がやや高いとされています。
・感染症:切開した傷口や子宮の中に感染が起こることがあります。このため、手術前の抗菌薬の投与や清潔操作でリスクを下げる対策をしています。
血栓症
妊娠・出産の時期は血液が固まりやすくなっており、帝王切開後の安静が長引くと脚の血管に血の塊(血栓)ができやすくなります。いわゆるエコノミークラス症候群に似た状態です。これを放置すると、血栓が肺に飛んで呼吸困難を起こすこともあるため、早めの歩行練習や、着圧ストッキングなどの着用、必要に応じて血液をサラサラにする薬を活用するなどしてリスクを減らします。
癒着や次回妊娠への影響
これは、帝王切開に限らず、おなかを切って行うすべての手術に言えることですが、手術後は、お腹の中で臓器同士がくっついてしまう「癒着」が起こることがあります。多くは症状が軽いのですが、次回の妊娠・出産の際に手術が難しくなる要因になることもあります。
また、帝王切開のときに開いた傷あとの部分が薄くなり、次回の妊娠に影響する場合があります。
リスクはどう受け止めればいいの?
ここまでリスクを並べると、ちょっと怖いと感じてしまう人もいるかもしれませんが、重要なのは、手術前にリスクを想定して準備しているということです。
抗菌薬の投与、血栓予防、手術中のモニタリングなど、帝王切開術にはあらゆる安全策が組み込まれており、多くのお母さんが安全に帝王切開を終えられています。つまり、「リスクはあるが、きちんと管理できる」といえるでしょう。帝王切開は医学的に確立された安全なお産の選択肢であることを理解していただきたいと思います。

帝王切開の術後の経過について
帝王切開は後がしんどい、という噂はよく聞きますよね。手術後に「どう回復していくのか」「どれくらいで普通の日常生活に戻れるのか」が気になるところ。
ここでは、入院中の過ごし方から退院後の生活の注意点や傷跡のケアなどを詳しく解説します。
入院中の回復スケジュール
術後〜1日目
麻酔が切れる前から鎮痛薬が投与され、痛みが強くなりすぎないように調整します。手術の当日は、安静にして過ごし、翌日には、看護師や助産師のサポートを受けながらベッドの端に座って立ち上がり、短い距離を歩きます。
手術の翌日から歩行?!とびっくりする人も多いですが、この歩行訓練は血栓予防と腸の動きを促すために非常に大切なステップになりますので、頑張りましょう。経過によりますが、尿の管(カテーテル)が外れ、トイレ歩行ができるようになります。
2〜3日目
食事はおかゆなど消化の良いものから始め、数日で通常の食事に戻ります。この頃から、授乳の練習がスタートします。横抱きやフットボール抱き(脇に抱える方法)など、傷に負担をかけない授乳姿勢を助産師と一緒に練習していきます。
4〜5日目
傷の痛みはまだあるものの、回復が順調だと、赤ちゃんのお世話ができるようになってきます。授乳やオムツ替えの体勢も少しずつスムーズに。
5〜8日目(退院目安)
母子ともに問題がなければ、この頃に退院となります。退院前には、母体の状態確認(子宮収縮・出血量・貧血)と赤ちゃんのチェック(体重増加・黄疸など)を行います。
退院後の生活で気をつけることは?
家事や育児は「無理をしない」
頻繁に行われる手術とはいえ、帝王切開はお腹を切開する外科手術です。退院してもすぐに元通りの生活に戻れるわけではなく、傷口の回復を邪魔しないように、特に気をつけて生活しなければいけません。
できる範囲で、パートナーや周囲にも任せるようにし、①重い荷物を持たない、②長時間の立ち仕事を避ける、③赤ちゃんの抱っこも体に近づけて下腹部への負担を減らす方法をとる、など傷口の負担になる動作は控えるように工夫しましょう。
入浴・運動の再開時期は?
シャワーは退院後すぐにOK。湯船は傷口の治り具合や医師の許可を待ってから。1ヶ月検診で傷口をチェックしてもらい、そのときに傷の治りに問題がなければ許可が出ることが多いです。運動は、お散歩を兼ねたウォーキング程度から始め、徐々に体を慣らしていきましょう。
傷跡のケアをどうすればいいか気になる!
傷跡の経過
術後すぐには、赤みがあり、少し盛り上がった状態になりますが、数か月かけて赤みが薄れていき、やがて白っぽい線状になっていきます。ちなみに、帝王切開のときに縫合に使う糸は、吸収される素材でできており、抜糸の必要がないことが多いです。1年程度たつと、ほとんど目立たなくなる方が多いですが、傷跡の残り方や回復のスピードには個人差があります。
かゆみを伴ったりした場合には医療機関に相談を。

セルフケアの工夫
・保護テープの適切な使用:ドラッグストアなどで手に入る保護テープを使います。摩擦や引っ張りを防ぎ、傷跡の安定化を助ける役割をしてくれる保護テープがあります。分娩施設で退院時に処方してもらえるほか、退院後もテープを自分で張り替えて使うことで、傷口の保護や紫外線予防をします。
・保湿ジェルやクリーム:乾燥を防ぎ、柔らかい瘢痕(はんこん)に導きます。
よくある誤解と、ほんとうのところ
・「帝王切開だと母乳が出にくいって本当?」
出産直後の体の回復に時間がかかるため、授乳の立ち上がりがゆっくりになることはありますが、体勢の工夫で十分に授乳は可能です。ぜひ助産師に相談して手伝ってもらいましょう。
・「傷が目立つのが心配」
子宮はおへその下の方にあるので、通常は目立たないように下腹部の横切開で、下着のラインに隠れやすい場所を切ります。胎盤や子宮筋腫に被ってしまうため避ける必要があるとき、緊急帝王切開では術野を確保するために縦向きに切ることもあります。スキンケアや保護テープで落ち着くまで、やさしくケアしていきます。
まとめ|帝王切開の手順は大切なリスクヘッジ
ここまで、帝王切開の基本から手術の流れ、メリットとリスク、術後の回復スケジュールまでを一通りたどってきました。
帝王切開には、外科手術ならではのリスクや、術後の痛み・回復の大変さもありますが、そのリスクを最小限にするために、感染予防や血栓症予防など、さまざまな安全対策を講じています。手術にあたっては、医師や助産師に指示された手順に従い、わからないことがあれば相談しておきましょう。
次回は、気になる帝王切開の費用や、帝王切開で第一子がうまれた後の妊娠・出産についても解説していきます。
【参考・出典】
日本産科麻酔学会HP 「帝王切開の麻酔Q&A」
産婦人科診療ガイドライン2023、日本産婦人科医会、日本産科婦人科学会
病気がみえる 産科 第10版 メディックメディア、2021














