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社会的卵子凍結 不妊治療

 

卵子凍結を選ぶ前に知ってほしいメリットとデメリット

近年、キャリア形成やパートナーとの関係、経済的理由などから「卵子凍結」について質問を受けることが増えてきました。「社会的」卵子凍結とは、がん治療などの医学的理由ではなく、加齢による妊孕性(妊娠する力)の低下に備えて、若いうちに卵子を採取して凍結保存しておく方法です。卵子凍結を選ぶ前に知っておいてほしいメリットとデメリットについて詳しく解説します。

社会的卵子凍結のメリットとデメリット

項目メリットデメリット
妊娠の
タイミング
・自分のライフプランに合わせて妊娠時期を選択できる
・キャリア、学業、経済的安定を優先できる
・適切なパートナーを待つ時間的余裕ができる
・先延ばしにすることで自然妊娠の機会を逃す可能性
・「いつでも妊娠できる」という誤った安心感のリスク
・実際に凍結した卵子を使用するのは10%前後
妊娠成功率・若い年齢(35歳以下)で凍結すれば質の良い卵子を保存できる
・ガラス化法により卵子生存率の向上
・加齢による妊孕性低下への対策になる
・卵子1個あたりの出産率は2~12%程度
十分な数(20個以上)の採取が必要
・36歳以降の卵子凍結では妊娠率が低下
・妊娠を保証するものではない
医学的リスク・技術の進歩により安全性が向上
・凍結卵子から生まれた子どもに明らかな健康リスクは現時点で認められていない
・卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスク
・採卵手術による痛み・出血・感染の可能性
・麻酔に伴うリスク
経済的側面・将来の不妊治療費を削減できる可能性
・複数回の体外受精を避けられる場合がある
・保険適用外で全額自己負担
・融解・体外受精が自費になる
・総額数百万円になる可能性
(参考:費用の負担について

社会的卵子凍結のメリット

1. 妊娠のタイミングとキャリア計画

女性が自身のライフプランに合わせて妊娠・出産のタイミングをコントロールできることです。キャリア形成、学業の継続、経済的安定の確保、適切なパートナーとの出会いなど、人生の重要な選択をしながら、将来の妊娠の可能性を残すことができます。

2. 心理的な安心感

卵子凍結を行った女性からは「心理的な安心感を得た」という声があがっています。「若い時期に妊娠しなければいけないプレッシャー」から解放されることで、焦りや不安が軽減され、今の人生により集中できるという声が聞かれます。

3. 加齢による卵子の質低下の予防

卵子の質は年齢とともに低下し、妊娠率は35歳を過ぎると低下しはじめます。40歳を超えると妊娠率の低下に加えて流産率も高まり、出産できる可能性が下がります。卵子凍結を若い年齢で行うことで、将来の妊娠成功率を高めることができます。研究では、35歳未満で卵子凍結を行った場合、その卵子を使うことで妊娠・出産率を高く維持できることが示されています(参考文献1)

社会的卵子凍結のデメリットとリスク

社会的卵子凍結 不妊治療
photo: PIXTA

1. 「将来の妊娠」の保証はない

卵子凍結は「妊娠の保険」と呼ばれますが、決して妊娠を保証するものではありません。凍結した卵子がすべて妊娠に結びつくわけではありません。凍結した卵子をとかして融解したときの生存率、その卵子を使った受精率、胚発育率、着床率など、各ステップで一定の損失が生じます。研究によれば、凍結した卵子1個あたりの出産率は2~12%程度とされており(参考文献2)、現実的には将来の妊娠のためには「20個以上の成熟卵子」を凍結することが推奨されています。しかし、これには複数回の採卵が必要となる場合も多く、すべての女性が十分な数の卵子を採取できるわけではありません。

2. 採卵に伴う合併症のリスク

卵子採取には、排卵誘発剤の使用と腟からの採卵処置が必要です。これには以下のようなリスクが伴います。

卵巣過剰刺激症候群OHSS):排卵誘発により卵巣が過剰に反応し腹水がたまることで、腹部膨満感、腹痛、吐き気などが起こることがあります。まれに血栓症や呼吸困難などになり入院治療が必要になる可能性があります。
採卵処置のリスク:腟から針をさして採卵するため痛み、出血、感染のリスクがあります。
麻酔のリスク:採卵時に痛みを和らげるために静脈麻酔を使用することがありますが、静脈麻酔による頭痛、吐き気、めまいなどが起こることがあります。

3. 費用の負担

社会的卵子凍結は保険適用外のため、全額自己負担となります。日本国内では、採卵1回あたり30~50万円程度、さらに卵子の保存料が毎年数万円ずつ必要となります。複数回の採卵を行う場合や、その後の融解・体外受精にもさらに費用がかかるため、総額では数百万円に達することも珍しくありません。社会的卵子凍結した卵子を使う場合も医療保険が使えないため、凍結卵子をつかった不妊治療も自費となってしまうことに注意が必要です。
*費用については、東京都など一部の自治体で卵子凍結の費用助成が行われています。事前に申込みが必要なため、各自治体のHPで詳細を確認してください。

4. 年齢の影響

卵子凍結は若いうちに行うほど成功率が高いのですが、多くの女性が実際に卵子の凍結を行うのは35歳以降となっています。しかし、35歳以降の場合は卵子の質や数が低下し始めているため、十分な数の良質な卵子を採取できない可能性があります。また、凍結した卵子をつかって妊娠する場合、高齢での妊娠・出産にともない妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、早産などが増加します。

社会的卵子凍結の費用の目安(日本国内)

項目 費用(単位:円)備考
初回カウンセリング・検査2~5万血液検査、超音波検査など
採卵1回
(排卵誘発+採卵処置)
30~50万施設により異なる
卵子凍結保存料(初回)5~10万凍結個数により変動
年間保存料2~5万毎年必要
融解・体外受精30~50万使用時に必要
総額の目安100~300万以上採卵回数、保存期間により大きく変動

*自費のため施設によってことなります

社会的卵子凍結をする前に知っておいてほしいこと

社会的卵子凍結は、女性の人生の選択肢を広げる技術ですが、万能ではありません。
以下の点を知っておくことが必要です。

早めの決断:研究からは「36歳まで」に卵子凍結をすることが勧められています(参考文献3)
保険と保証の違い:卵子凍結は「保険」にはなりますが「将来の妊娠」を保証するものではありません。実際に凍結した卵子を使用する割合は10%前後と低いとされています(参考文献4)
十分な説明を受ける:合併症のリスク、成功率、費用について、産婦人科やスタッフと十分に話し合うことが不可欠です。

社会的卵子凍結は女性にとって新しい選択肢の1つです。正確な情報を知ったうえで、ご自身の価値観、人生の優先順位、健康状態、経済状況を総合的に考慮し選択をすることが大切だとCrumiiでは考えています。

・もっと詳しく知りたい方へ

日本産科婦人科学会の社会的卵子凍結の解説動画
東京都 卵子凍結への支援に係るアンケート調査

【参考文献】
(1) Mertes H, Pennings G. Social egg freezing: for better, not for worse. Reproductive Biomedicine Online. 2011;23(7):824-829.
(2) Petropanagos A, Cattapan A, Baylis F, Leader A. Social egg freezing: risk, benefits and other considerations. CMAJ. 2015;187(9):666-669.
(3) Kasaven LS, Jones BP, Heath C, et al. Reproductive outcomes from ten years of elective oocyte cryopreservation. Archives of Gynecology and Obstetrics. 2022;306(5):1753-1762.
(4) Walker Z, Lanes A, Ginsburg E. Oocyte cryopreservation review: outcomes of medical oocyte cryopreservation and planned oocyte cryopreservation. Reproductive Biology and Endocrinology. 2022;20(1):1-14.

柴田綾子

この記事の執筆医師

医長

柴田綾子先生

産婦人科

世界遺産15カ国ほど旅行した経験から母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修し2013年より現職。女性の健康に関する情報発信やセミナーを中心に活動。著書:女性の救急外来 ただいま診断中!(中外医学社,2017)、産婦人科ポケットガイド(金芳堂,2020)。女性診療エッセンス100(日本医事新報社,2021)明日からできる! ウィメンズヘルスケア マスト&ミニマム(診断と治療社,2022)

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