
妊娠中の「お腹の大きさ」、私は大丈夫? 妊娠週数ごとのお腹と体の変化を、産婦人科医が解説します
妊娠中は体にさまざまな変化が訪れ、赤ちゃんに出会える期待と不安が入り混じる時期。特に初めての妊娠の場合は、色々な悩みや疑問があると思います。そのひとつである「お腹の大きさ」。自分のお腹のふくらみ方が順調なのか心配になったり、赤ちゃんがちゃんと成長しているのか不安になったり。
本記事では、「私のお腹の大きさはこの週数で本当に大丈夫?」「お腹の大きさと赤ちゃんの成長にはどんな関係があるの?」といった疑問にお答えする形で、妊娠週数ごとにどのようにお腹が変化していくのかや、それに伴う体の変化について、詳しく解説していきます。
妊娠中のお腹の大きさの目安
妊娠初期(1~4ヶ月)
お腹の出具合
妊娠初期は子宮がまだ骨盤の中に収まっているため、目立ったお腹のふくらみは感じにくい時期です。子宮は妊娠4ヶ月頃(妊娠12~15週)から徐々に骨盤より上へと大きくなり始めますが、個人差が大きいのが特徴です。13週くらいからちょっとぽっこりしたかな?という人もいれば、20週近くなっても傍目に見ると全然妊婦さんとわからない人もいます。
初期の頃はつわり(妊娠初期に起こる吐き気や食欲不振などの症状)も出やすい時期ですが、お腹が急激に大きくなることはありません。おへそのあたりや、下腹部にほんの少し張りを感じる程度の方が多いでしょう。
赤ちゃんの成長
妊娠4か月頃には赤ちゃんの頭からおしりまでの長さ(頭殿長)が約8~10cmほどになりますが、まだ体重は100g前後で超音波検査でもようやく人間の形をはっきりと認識できる程度。この時期、つわり(吐き気や食欲不振)で体重が減ってしまう妊婦さんも珍しくありませんが、赤ちゃんには必要な栄養が行き渡るよう母体側で調節が行われています。この時期は栄養バランスにこだわらず、食べられるものを食べて、心配な症状があれば産婦人科で相談しましょう。
妊娠中期(5~7ヶ月)
お腹の出具合
妊娠中期(妊娠16~27週)になると、子宮はおへその位置より上に達し、外見でもはっきりとお腹がふくらんでいるとわかるようになります。一般的には、妊娠20週前後で子宮底(子宮の上端部分)がちょうどおへその高さにくるため、妊婦さん自身も変化を実感しやすいです。この頃から、自分のお腹まわりの変化に合わせてお腹まわりが楽なマタニティウェアにシフトしていくと、快適に過ごせると思います。
また、この頃から胎動(赤ちゃんが子宮内で動くこと)をはっきり感じ始める方も多いです。お腹のふくらみに合わせて腰痛やむくみなどが出てくる方もいますので、無理をせず休息をとるようにしましょう。
赤ちゃんの成長
この時期、赤ちゃんの体重はだんだんと増え、妊娠7か月頃(約24~27週)には700~1000g程度になるとされています。妊婦健診でも赤ちゃんの心拍や各部位の大きさを測って、発育の様子を確認していきます。
妊娠後期(8~10ヶ月)
妊娠後期(妊娠28~40週)は、赤ちゃんの成長がさらに進み、子宮底はみぞおち付近まで達します。くることもあります。
お腹の出具合
妊娠8か月(28~31週)を超えるとお腹はさらに大きくなり、子宮底はみぞおち付近まで達します。体の重心が変化しやすいため、転倒に注意が必要です。足お腹が前方に大きくせり出すようになるため、足元が見えにくくなったり、階段の上り下りが大変に感じることもあります。出産が近づくにつれて、膀胱が圧迫されてトイレが近くなったり、パンツや靴下を自力で履くのが大変になったり、と日常生活に支障をきたす人も。お腹が圧迫されることで胃のむかつき(胃もたれ)や胸やけが起こりやすく、食事がとりづらいことも増えてきます。少しずつ食事を小分けにするなど、工夫をしてみてください。
赤ちゃんの成長
正期産(37週以降)に近づくと、赤ちゃんは体重2500gを超え、出産時には平均3000g前後になるとされています33。お腹のサイズが大きいのは赤ちゃんがしっかり育っている証拠ですが、急な増大や異常な張りを感じた場合は切迫早産や羊水過多の可能性もあるため、かかりつけ医の診察が重要です。
お腹の大きさには個人差もある
妊娠中のお腹の大きさは、週数が同じでも人によって全く違うことがあります。これはお母さんの体型や筋肉量、胎児の体格、羊水量などが関係しているためです。

初産婦と経産婦の違い
・初産婦(しょさんぷ)とは、初めて妊娠・出産を経験する女性のことです。
・経産婦(けいさんぷ)とは、すでに出産経験がある女性のことです。
一般的に、経産婦の方が子宮や骨盤周りの筋肉・靱帯(じんたい)が一度伸びているため、初産婦よりも早い段階からお腹が目立ちやすい傾向があります。また、お腹の張りを感じやすかったり、体の変化を早めに察知しやすいという特徴があります。
羊水量
妊娠中は、赤ちゃんを包む羊水の量によってもお腹の大きさが変わります。羊水は赤ちゃんを包む液体で、赤ちゃんの成長や体温維持を支える重要な役割を担っています。羊水量は妊娠週数により変化し、妊娠中期~後期にかけてピークを迎えるのが通常です。
・通常の羊水量は、多少のばらつきがあり妊娠32週頃に約700~800mL程度と言われています(※1)。
・羊水過多(ようすいかた)の場合は、赤ちゃんの腎臓の働きや、妊娠糖尿病などが影響する場合があり、お腹が急激に大きくなることもあります。
・羊水過少(ようすいかしょう)の場合は、赤ちゃんの成長や羊膜(ようまく)の状態に影響を与える可能性があります。
羊水量は妊婦健診時の超音波検査(エコー検査)でチェックしています。異常がある場合は医師から伝えますので、妊婦さん自身があまり気にしすぎる必要はありません。定期健診をきちんと受け、赤ちゃんと羊水の状態を確認してもらいましょう。
お腹の大きさ以外に、お母さんの体の変化も
妊娠による体の変化は、お腹の大きさだけではありません。ホルモンバランスの変化や皮膚の伸びが原因となり、さまざまな症状が出ることがあります。
妊娠線ができる
お腹の皮膚が急激に伸びることで、皮下組織の一部が裂け、赤や紫色の筋のような線ができる場合があります。これを妊娠線と言い、腹部や太もも、乳房など皮膚が大きく伸びる部位に出ることが多いです。妊娠線は出産後、時間の経過とともに色が薄くなることもありますが、完全に消えないケースもあります。
保湿ケアを行うことで、皮膚の乾燥を防ぎ、妊娠線の予防や軽減が期待できます。
毛深くなる
妊娠中はホルモンの影響で体毛が濃くなったり、増えたりすることがあります。とくにお腹周りや乳輪(にゅうりん)周辺の毛が気になってくる方もいらっしゃるかもしれませんが、多くの場合、産後にホルモンの状態が落ち着くと徐々に元に戻ります。あまりにも気になる場合は、肌に負担をかけないよう皮膚科など専門家に相談したうえで処置を検討しても良いと思います。
ひび割れや乾燥
お腹や乳房など、皮膚が引き伸ばされる部分は乾燥しやすく、かゆみを感じることがよくあります。かきむしると皮膚トラブルにもつながるため、保湿クリームやオイルをこまめに塗り、肌をいたわりましょう。睡眠に影響したり、湿疹が広がったりするようなら、早めに皮膚科で相談を。
お腹の大きさと赤ちゃんの成長
妊娠中のお腹の大きさは、赤ちゃんの成長をチェックする上でひとつの目安にはなりますが、必ずしもお腹が大きければ大きいほど赤ちゃんが大きい、というわけではありません。定期健診では、より正確に赤ちゃんの成長を評価するための指標が使われます。
子宮底長とは
子宮底長(しきゅうていちょう)とは、恥骨(ちこつ)の上端から子宮の一番上(底)までを測った長さのことです。妊娠中期以降の定期健診で測定され、妊娠週数に応じた平均値と比較して、赤ちゃんの発育状況や子宮の大きさに問題がないかをチェックします。
体格によっても子宮底長には個人差があり、必ずしも平均値に合わないからといって問題とは限りません。担当医と相談しながら、超音波検査の結果などを総合して判断します。
胎児の成長曲線
定期健診では、エコー検査(超音波検査)で赤ちゃんの大きさを測定し、胎児の成長曲線と照らし合わせて発育状況を判断します。具体的には、以下のような項目を測って推定体重を算出します。
BPD(Biparietal diameter)
赤ちゃんの頭の横幅
FL(Femur length)
太ももの骨の長さ
AC(Abdominal circumference)
お腹まわりの長さ
これらを総合的に評価して赤ちゃんの大きさを推定し、胎児発育不全や巨大児(平均より大きい赤ちゃん)などがないかをチェックします(※2)。お腹の大きさと合わせて、エコー検査などの客観的なデータで評価することが大切です。逆にいうと、お腹の大きさがまわりの妊婦さんと比べて多少大きく小さく感じたとしても、赤ちゃんの成長が問題なければ、過度に心配する必要はないので安心してください。
お腹の大きさの変化で注意すべきこと
通常、妊娠が進むにつれて段階的にお腹は大きくなります。しかし、急激な変化や形状の変化など、普段とは違う様子が見られる場合は、何らかのトラブルが隠れている可能性があるため注意が必要です。
急激な変化
急に大きくなったり、急に小さくなったりした場合
羊水量の異常(羊水過多や羊水過少)や、早産・破水の可能性などが考えられます。
急にお腹の張りが強くなり、痛みが伴う場合
切迫早産(せっぱくそうざん)や常位胎盤早期剝離(じょういたいばんそうきはくり)などの重篤なトラブルが起こっている可能性もあります。
痛みや出血、普段と違う強い張りを感じたときは、早めに産婦人科を受診してください。
変形
部分的に極端に盛り上がる、お腹の形が明らかに偏るなど
妊娠中期以降、赤ちゃんの体勢や胎動によってお腹の形が一時的に左右どちらかへ偏ったり、ボコッと盛り上がることがあります。これは多くの場合、一時的な現象で問題ありません。赤ちゃんの向きによってお腹の形が変化することはよくありますが、痛みを伴う場合や形が戻らない場合は、医師に相談しましょう。
突発的なお腹のへこみや変形
破水や早産、子宮内の異常などが関連することも考えられるため、自己判断せずに受診が必要です。
まとめ
妊娠中は、赤ちゃんの成長に合わせてお腹の大きさや形が変化し、皮膚や体毛にもさまざまな変化が現れます。お腹が大きくなることは、赤ちゃんが順調に育っている証。もちろん、急激な変化や明らかな異常感がある場合には早めに相談が必要ですが、定期健診をきちんと受け、健診で「問題ない」と言われているのであれば、過度な不安を抱えすぎないようにすることも大切です。
・お腹の大きさには初産婦・経産婦の違い、羊水量、筋肉量など多くの要素が関係するため、個人差があります。
・妊娠線や毛深くなるなどのお母さんの体の変化も起きやすいため、保湿やスキンケアを心がけましょう。
・お腹の大きさの急激な変化や形の異常を感じた場合は、早めに医師に相談してください。
【参考文献】
(※1) 厚生労働省「妊娠・出産」関連情報
https://www.mhlw.go.jp/
(※2) 日本産科婦人科学会「産科ガイドライン」
https://www.jsog.or.jp/
【参考文献・情報源】
日本産科婦人科学会「産科診療ガイドライン」2020年版
厚生労働省『母子保健の包括的支援に関する資料』
世界保健機関(WHO) “Care during pregnancy: antenatal care.” 2016
日本産科婦人科学会「初産と経産の妊娠経過に関する調査報告」(学会誌)
厚生労働省『周産期医療の現状と課題』第○章 - 羊水異常に関する記述
厚生労働省e-ヘルスネット「妊娠線と予防策に関する基礎知識」
日本産婦人科医会「妊娠中の体毛や抜け毛に関するQ&A」
厚生労働省『母子健康手帳解説書』 - 子宮底長の測定方法
日本産科婦人科学会「妊娠各期における胎児発育曲線の概要」