
妊娠安定期はいつから? 安定期の定義から正しい過ごし方を産婦人科医が解説
妊娠がわかったときから耳にする「安定期」。特に初めての妊娠の場合は、気になる方も多いでしょう。「安定期に入るのは何週目?」「運動や旅行は大丈夫?」「注意点は?」など、疑問はいろいろ。
本記事では、妊娠16週ごろから始まるとされるいわゆる「安定期」について、コンパクトに解説します。つわりが落ち着き、赤ちゃんの成長も進むこの時期、落ち着いて出産準備を始められるのでは。基本を押さえておくことで、少しでも安心してマタニティライフを送りましょう。もし不安や気になる症状があれば、かかりつけ医に相談することも忘れずに。
妊娠安定期とは
安定期はいつからいつまで?(そもそも医療において「安定期」はない)
妊娠中期にさしかかる妊娠16週頃から「安定期」と呼ばれることが多いですが、実は「安定期」は医学用語ではなく、昔から一般的に使われている言葉です。「つわりの症状が落ち着き、流産のリスクが相対的に低くなる時期」としてざっくりと捉えられています。
ただし、流産リスクがゼロになるわけではなく、個人差も大きいため、安定期という名称にとらわれすぎずに、引き続き無理のない生活を心がけることが大切です。
妊娠初期・中期・後期の区分
では実際に安定期がどのあたりに位置するかというと、日本産科婦人科学会などの指針では、妊娠の期間を以下のように区分しています。
妊娠初期
妊娠0週(最終月経開始日を0週0日とする)~15週6日
妊娠中期
妊娠16週0日~27週6日
妊娠後期
妊娠28週0日~出産まで(約40週0日)
妊娠中期は赤ちゃんの器官形成がほぼ終わり、成長が進んでいく段階です。個人差はありますが、吐き気や嘔吐、匂いに敏感になる、といったつわりの症状が軽快する人が増え、体調が比較的安定しやすい時期とも言われています。これが、「安定期」という名前の理由でもあります。
「安定期」の母子の状態について
ママの状態は?
つわりが落ち着く
「安定期」に入ると、つわりの症状が落ち着く方が多いです。朝起きたときの気持ち悪さや食べられないほどの吐き気などが軽減し、食事を楽しめるようになることがあります。ただ、すべての方に当てはまるわけではなく、つわりが長引いたり、再燃したりすることもあり、「一進一退でなかなか終わらない…」と長い間つらそうにされている妊婦さんもいます。あくまで目安であって個人差があることを認識しておきましょう。また、あまりにも長引くようであればつわり以外の原因を探した方がいい場合もあるので、主治医に相談しましょう。
そのほかにも以下のような症状・変化が出ることもあります。
・お腹の膨らみを感じ始める
・体重増加や便秘になる
・動悸や息切れ(子宮が大きくなることで、横隔膜が押し上げられ、呼吸が浅くなりやすい)
つわりから解放されることもあり、食欲が増したり、むくみを感じたりするようになります。
赤ちゃんの状態は?
妊娠中期に入ると、赤ちゃんの体のさまざまな器官はほぼ出来上がっていて、発育、発達していく時期になります。妊娠20週前後から、「胎動」と呼ばれる赤ちゃんの動きを感じることがあります。初めての妊娠では少し遅れる場合もありますが、「ポコポコ」としたかすかな振動や動きに驚く方も多いでしょう。
妊娠安定期の過ごし方

01.質の高い睡眠を確保する
妊娠中はホルモンバランスの変化やお腹の大きさの影響で、睡眠が乱れやすくなります。質の高い睡眠を確保するために、以下を意識してみましょう。
寝る前のリラックスタイムをつくる
スマートフォンやパソコンなどの画面を見る時間を減らし、音楽を聴いたりストレッチをしたりして体をほぐす
快適な寝姿勢を工夫
クッションや抱き枕を使って、横向きや楽な姿勢で眠る
生活リズムをととのえる
なるべく同じ時間帯に起床し、昼夜のメリハリをつくる
02.ウォーキングなどの軽い運動を習慣づける
「安定期」と呼ばれる時期は、つわりが落ち着き、体調も整いやすくなる方が多い時期です。元気なときはウォーキングやストレッチなどの軽い運動を取り入れてみましょう。
ウォーキングのポイント
こまめに水分をとり、無理のないペースで、疲れたらすぐ休むようにする
運動のメリット
体重コントロールがしやすくなることが挙げられます。血流が良くなり、むくみや便秘の改善が期待できたり、気分転換にも。
注意点
医師から「安静が必要」と指示されている方や、切迫流産・切迫早産などを指摘された方は、必ず主治医の指示に従ってください。
妊娠経過が順調な場合、無理のない範囲での適度な運動(ウォーキングなど)は健康維持に推奨されています。必ず医師の確認を受けてから始めるようにしましょう。
妊娠期の運動は、心身のリフレッシュにも効果的ですが、体調の変化に敏感になる時期でもあるため、無理をしないことが大切です。
妊娠安定期のNG行動
アルコール摂取
妊娠中のアルコール摂取は、胎児性アルコール症候群という赤ちゃんの発育障害を引き起こす可能性が指摘されています。世界保健機関(WHO)や厚生労働省なども、妊娠中の飲酒は避けるよう推奨しています。「少量なら大丈夫」という基準はなく、安全な摂取量はゼロと考えられているため、妊娠がわかった段階でアルコールは控えるのが望ましいです。
胎児性アルコール症候群
妊娠中の飲酒により、胎児に認知や身体の発育障害が生じる病態のこと。
妊娠安定期こそ注意したい事
定期健診はきちんと受ける
安定期とはいっても、安心してハメを外していい時期ではないことを心に留めておきましょう。何が起こるかわからないのが妊娠中。健診は妊娠経過に応じた検査(血液検査や超音波検査など)や、お母さんと赤ちゃんの成長・健康状態を確認するために大切なことです。特に異常がなくても、定期健診を受けましょう。
病気・症状など
切迫流産、切迫早産
安定期でも、切迫流産(せっぱくりゅうざん)、切迫早産(せっぱくそうざん)という流産、早産の危険が高い状態に陥る場合があります。兆候としては、お腹の痛みや強い張り、出血などの症状が代表的です。
安静が必要となることもあるため、少しでも異変を感じたら早めに医療機関を受診しましょう。
※注釈
流産(りゅうざん)とは:妊娠22週未満で妊娠が継続できなくなることをいいます。
早産(そうざん)とは:妊娠22週0日から36週6日までに出産することをいいます。
旅行はしてもいいの?
妊娠中期は比較的体調が安定しているため、旅行を検討する方もいらっしゃるかもしれません。経過が良好であれば、絶対にダメということではありませんが、担当医によって方針が分かれることもあります。状態や旅行先によっては難しいこともありますし、色々と注意すべきポイントがあります。
いわゆる「マタ旅」については、改めて別記事にして解説しますのでそちらをどうぞ。
まずは以下の点を踏まえておきましょう。
事前に医師と相談
体調や旅行先の医療体制など、個人の状況に応じて判断
移動方法の工夫
適宜休憩をとる、ゆとりを持った無理のないスケジュールにする
海外旅行の場合
言語や医療保険の問題もあるため、万が一の対応が可能かどうかを十分確認
安定期を快適に過ごし、出産に備えましょう
妊娠中期(安定期)は、体調の変化が落ち着いてくる一方で、からだの重心の変化やホルモンバランスの影響により、腰痛やむくみ、便秘などが続くこともあります。無理をせず、ご自身の心身を大切にする時間を意識して過ごしてください。質の良い睡眠やバランスのとれた食事、適度な運動は、出産に向けた身体づくりと赤ちゃんの成長につながります。
また、どんなに気をつけていても、不安や疑問は絶えないもの。少しでもおかしいと思ったり、心配なことがあれば、遠慮なくかかりつけの産婦人科に相談してください。妊娠は赤ちゃんだけでなくお母さんにとっても大きな体験です。安定期を快適に過ごして、元気な赤ちゃんとの対面に備えましょう。
【参考文献・参照】
産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版
日本産科婦人科学会HP
日本臨床スポーツ医学会 妊婦スポーツの安全管理基準