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ワクチンを接種している女性の腕

 

産婦人科医が解説~妊娠中のワクチン接種の重要性~ インフルエンザ・RSウイルス・百日咳ワクチンの効果

1.妊娠中のワクチン接種が大切な2つの理由

妊娠中のワクチン接種には、主に2つの重要な目的があります。
1つ目は、妊婦さん自身の感染症予防と重症化の予防です。妊娠中は免疫システムの変化により、いつもより感染が重症化しやすい状態になります。また、妊娠中はお腹も大きく、咳や発熱などの症状は非常につらいです。ワクチンを打つことで重症化を予防し、症状をなるべく軽く押さえることが重要です。
2つ目は、「母子免疫」による赤ちゃんへの重症化予防です。
妊婦さんがワクチンを接種することで、体の中で作られた抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに移行し、生まれた赤ちゃんを守ることができます。

特にワクチン接種をおすすめしているのは以下の方です。

・ご自身やご家族が営業職や保育士など、日常でたくさんの人や子どもに会う
・ご自身やご家族に持病をお持ちの方がいる
・上の子が保育園・学校に通っている
・生まれてくる子が早く保育園などに通う可能性がある

これらの方は、感染症をもらいやすい環境にあります。そのため、特にワクチン接種による予防がおすすめです。

今回は、日本産婦人科感染症学会※参考文献1と、日本小児科学会※参考文献2が妊娠中の接種をおすすめしている「インフルエンザ・RSウイルス・百日咳ワクチン」について解説します。

2.インフルエンザワクチン

インフルエンザワクチンは、妊娠中に特に勧められるワクチンの一つです。海外での研究により、妊婦中にインフルエンザワクチンを接種することで、インフルエンザによる救急室への受診や救急治療が46%減ることがわかっています※参考文献

また、妊娠中(特に妊娠後期)にインフルエンザワクチンを打っておくと、生まれた赤ちゃんが生後3ヶ月になるまでインフルエンザで入院したり重症になるリスクを約半分に減らすことができます(それ以降も入院や重症化を予防する効果はありますが、じょじょに少なくなっていきます)。
赤ちゃんは生後6か月までインフルエンザワクチン接種の対象外です。そのため、妊娠中にワクチンを打っておき、お腹の中にいる間に抗体を赤ちゃんに渡して保護することが大切となります。

接種時期
インフルエンザワクチンは妊娠全期間を通じて接種可能です。妊娠初期から後期まで、いつ接種しても安全性に問題はありません。日本で使用されているインフルエンザワクチンは不活化ワクチン(ウイルスを殺した状態のワクチン)であり、赤ちゃんへの感染リスクはありません。可能であれば、妊娠後期(妊娠28週以降)に接種した方が、赤ちゃんの予防効果が高くなるとされています(※参考文献4)。

副反応と安全性
妊娠中のインフルエンザワクチン接種による副反応は、妊娠していない時と変わりません。最も多く見られる副反応は、接種部位の赤み、腫れ、痛み、37度の微熱や倦怠感ですが、これらは通常2~3日で自然によくなります。

妊娠中にインフルエンザワクチンを接種しても、流産・死産、胎児の奇形のリスクは増えないこともわかっています(※参考文献5)。
また、スウェーデンでの4万人のデータ研究でも、妊娠中にインフルエンザワクチンを接種した場合も自閉症スペクトラム障害のリスクは高くならないことが報告されています(※参考文献6)。

3.RSウイルスワクチン

RSウイルスは、2歳までにほぼ100%の子どもが感染してしまう、町中に多く存在する感染症です。しかし生後6か月未満の子どもが感染してしまうと重症になってしまい、肺炎や無呼吸を起こし、最悪の場合は人工呼吸器の管理が必要になることがあります。
妊娠中にRSウイルスワクチンを接種することで、生まれた赤ちゃんは生後約6か月間にわたってRSウイルス感染による入院のリスクを約70%減らせることがわかっています※参考文献

接種時期
RSウイルスワクチンは妊娠24週から36週の間に接種できます。より効果を得るため、妊娠32週から36週での接種が特におすすめされています。
2024年5月から日本でも妊婦向けRSウイルスワクチン(アブリスボ®筋注用)の接種が開始され、2026年から定期接種になることが決まりました。

副反応と安全性
主な副反応は、注射部位の痛み(41%)、頭痛(31%)、筋肉痛(27%)、37℃台の微熱、倦怠感です(※参考文献7)。これらは1〜3日で改善します。それ以外には、赤ちゃんやお母さんへの重篤な副反応のリスクは報告されていません。

4.百日咳ワクチン

百日咳は、生後6か月未満の赤ちゃんで特に重症化しやすい感染症です。無呼吸発作や肺炎、脳症を合併し、命にかかわることもあります。妊娠中に百日咳ワクチンを接種することで、生まれてきた赤ちゃんが重症になるリスクを減らすことができます。海外の研究では、妊娠中のワクチン接種によって、生まれてくる赤ちゃんが百日咳で入院するリスクは約90%低下し、死亡するリスクを95%減らすことができます(※参考文献8)。

海外では、米国、英国、ベルギー、ニュージーランド、オーストラリア、ブラジル、韓国などで妊娠中の百日咳ワクチン接種が行われています※参考文献

接種時期
妊娠27週から36週(理想的には28週から36週)での接種が推奨されています。

*注意*
日本では成人用百日咳ワクチン(Tdap)が未承認のため、小児の定期接種として使用されているDTaP(トリビック®:ジフテリア・破傷風・百日咳の3種混合ワクチン)を妊婦に接種することもあります。

副反応と安全性
主な副反応は接種部位の痛み、発赤、腫れです。また、37℃台の微熱、頭痛、倦怠感が数日間でることがあります。
いくつかの研究データを統合したシステムレビューから、妊娠中の百日咳ワクチンの接種によって、流産や死産のリスクは増えないことがわかっています(※参考文献10)。また、妊娠後期に接種するワクチンのため、赤ちゃんの奇形が増えることはありません。妊娠中の百日咳ワクチン接種で、生まれた子どもの自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動性障害が増えることはないと報告されています(※参考文献11、12)。

 

ワクチン名接種時期主な副反応
インフルエンザ妊娠全期間接種部位の痛み‧発赤
微熱
RSウイルス
(アブリスボ®)
妊娠24~36週
(28~36週)
接種部位の痛み
発赤・頭痛・微熱
百日咳
(Tdapまたはトリビック®)
妊娠27~36週
(28~36週)
接種部位の痛み‧発赤

妊娠中ワクチン接種について

まとめ:妊娠中のワクチン接種の重要性

妊娠中のワクチン接種は、妊婦さん自身を感染症から守る効果に加えて、生まれてくる赤ちゃんの重症化や入院を減らす効果があります。
特に、インフルエンザワクチンは妊娠全期間を通じて、RSウイルスワクチンと百日咳ワクチンは妊娠後期での接種がおすすめです。妊娠中のワクチンに関して心配なことや不安なことがあれば、産婦人科医にご相談ください。

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photo: PIXTA

 

<もっと詳しく知りたい方へ>
日本産科婦人科学会 女性を脅かす感染症

 

【参考文献】
(1)日本産婦人科感染症学会.妊娠中に接種が推奨されるワクチン
(2)日本小児科学会予防接種‧感染症委員会.妊婦への接種が推奨または考慮されるワクチン.2025年10月7日. 
(3)Updated Evidence for Covid-19, RSV, and Influenza Vaccines for 2025-2026. N Engl J Med. 2025 Oct 29.
(4)Maternal Vaccine Effectiveness Against Influenza-Associated Hospitalizations and Emergency Department Visits in Infants. JAMA Pediatr. 2024;178(2):176–184
(5)Safety of influenza vaccination during pregnancy: a systematic review. BMJ Open. 2023 Sep 6;13(9):e066182. 
(6)Maternal Influenza A(H1N1) Immunization During Pregnancy and Risk for Autism Spectrum Disorder in Offspring: A Cohort Study. Ann Intern Med.2020;173:597-604
(7)RS ウイルス母子免疫ワクチンと抗体製剤 ファクトシート.令和 7(2025)年 10 月 22 日 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所
(8)Safety and effectiveness of acellular pertussis vaccination during pregnancy: a systematic review. BMC Infect Dis. 2020 Feb 13;20(1):136.
(9)国立健康危機管理研究機構.海外の妊婦への百日咳含有ワクチン接種に関する情報. (IASR Vol. 40 p14-15: 2019年1月号)
(10)Efficacy and safety of pertussis vaccination for pregnant women – a systematic review of randomised controlled trials and observational studies. BMC Pregnancy Childbirth 17, 390 (2017).
(11)Acellular Pertussis Vaccination and Autism Spectrum Disorder. Pediatrics. 2018 Sep;142(3):e20180120.
(12)The Association of Prenatal Tetanus, Diphtheria, and Acellular Pertussis (Tdap) Vaccination With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder. Am J Epidemiol. 2020 Oct 1;189(10):1163-1172

柴田綾子

この記事の執筆医師

医長

柴田綾子先生

産婦人科

世界遺産15カ国ほど旅行した経験から母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修し2013年より現職。女性の健康に関する情報発信やセミナーを中心に活動。著書:女性の救急外来 ただいま診断中!(中外医学社,2017)、産婦人科ポケットガイド(金芳堂,2020)。女性診療エッセンス100(日本医事新報社,2021)明日からできる! ウィメンズヘルスケア マスト&ミニマム(診断と治療社,2022)

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