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crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #52

「市長が産休を取得」が、ニュースになる国

京都府八幡市役所

京都府八幡市の川田翔子市長が、出産のために産休を取るというニュースが話題になっています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF242VO0U6A520C2000000/

八幡市役所には電話やメールで「素晴らしい」「無責任だ」など69件の意見が寄せられ、「件数としては賛成のほうが多いという状況」だそうです。

川田市長は2023年11月に八幡市長に就任、現在35歳で今回が初めての出産とのことです。祝福すると共に、無事のご出産をお祈りいたします。

令和も8年になるのに、首長が産休を取るのはこれが全国初なのか、と正直驚きました。海外では、ニュージーランドの首相が在任中に出産し、産休を取ったのは2018年でした。

日本でも、これまで男性政治家(鈴木英敬氏、小泉進次郎氏など)が配偶者の出産に合わせて働き方を緩めたり休みを取ったりしたことはありました。しかし、女性首長が出産し、産休を取るという前例はこれまでなかったということです。

政治の意思決定の場に、「当事者」がいない

日本のジェンダーギャップ指数の低さの原因の一つに、政治の場に女性が少ないということがありますが、出産可能年齢の女性に絞るとさらに希少ということでしょう。これは、政治という意思決定の場に特定の属性の人が欠けていて、偏った属性の人たちで物事を決めているということを意味します。

本来その場には特定の性別の人だけではなくて、妊娠出産をする人、育児真っ最中の人、子どもを持たない人、病気や障害を持つ人など、多様な人がいることが大切です。でなければ国民のニーズや意見とずれてきてしまいます。

今回、川田市長が任期中に出産し、産休を取ることで、「妊娠中・産後の女性」という属性を持つ人が地方自治の意思決定の場にいることになり、それだけでも意義深いことだと私は思います。

スーツ姿のお母さんと、抱っこ紐で子供を抱えたお父さん
Photo:PIXTA

「任期中に産むなら立候補するな」という批判

ところが、SNSでは「首長が長く穴を開けるのはおかしい」「任期中に出産するなら、初めから立候補すべきではない」というような批判的なコメントや、「出産は応援するが産休はだめだ」という頓珍漢(とんちんかん)なコメントが見られます。

驚くべきことに、複数の男性政治家からそのような意見がありました。産休は国の定める制度で、産後8週は休まないといけないのですが……。首長が休みを取ることよりも、むしろそういう認識の人が政治家でいることのほうが問題ではないでしょうか。

産休が「休暇」ではないことを、当事者はわかっている

産後「休暇」というとあたかも遊んでいるような印象を持っているのかもしれませんが、一度でも新生児育児の当事者となってみれば、どれだけ休む間もなく、まとまって眠ることもできないかわかると思います。

妻に育児を任せきりにして、産後や育児の大変さがわからない人たちが、これまで政治の場の大半を占めていたということは、偏った意思決定になっているのでは……と思ってしまいます。

 また、「任期が終わってから妊娠しろ」というような批判も見られましたが、妊娠はそんなに都合よく「今だ!」と調整できるものではありません。さらに、いつまでも妊娠できる保証はなく、任期が終わるのを待っていて妊娠できるとは限りません。

もしそれで産む時期を逃してしまえば、批判的なコメントと同様の意見を言う人は、それはそれで批判するに決まっています。任期中に妊娠・出産するなら立候補するな、というのは結局のところ、「妊娠や出産の可能性がある女性は政治家になるな(そうすれば妊娠しない属性の人の当選確率が上がる)」と思っているだけだと私は思います。

夜泣き対応で疲れた夫婦
Photo:PIXTA

休む可能性があるのは、妊産婦だけではない

そもそも、首長や議員の仕事は、一期やって終わりというものでもありません。何期も務めた後、議員から首長に立候補したり、国政に行ったり、キャリアを重ねながら自治体や国の政治に継続して関わっていく人も多いです。他の職種でもそうですが、出産を考える女性は、妊娠・出産・子育てが全部落ち着くまで仕事をしないというのは非現実的で排除的な考えです。両立を考えるべきなのは明らかです。

「長期間休む可能性があるなら立候補すべきではない」と言うなら、持病のある人も、家族の介護を抱える可能性のある人も、体調を急に崩すかもしれない高齢の人も、誰も彼も立候補できなくなります。妊娠出産を問題視するよりも、「誰しも一時的に働き方を緩めたり休んだりしないといけないことがあるよね」という意識を広めるほうが大切だと思います。

逆に、属人性が高く、トップが休んだら回らない組織のほうが危険ではないでしょうか。首長が何らかの理由で一時的に不在になっただけで運営に支障があるなら、それは産む・産まないの問題ではなく、組織そのものの問題だと思います。

企業でも、病院でも、自治体でも、誰か1人がいないと立ち行かない仕組みでは脆弱(ぜいじゃく)です。小規模の経営者として言いますが、自分がいなくても回るようにしておくことは、責任ある立場の人にとって大事な仕事の一つだと思います。

前例が、これからの女性政治家の道を開く

議会で質問する女性政治家
本文を元にAIにより生成

今回の件で露呈したことは、これまで政治の世界は、妻に出産と家事育児を担ってもらい、自分は仕事に専念できる男性が中心で、産休・育休という発想がなかったということです。ですが、政治は老若男女さまざまな立場の人に影響する政策を決める場です。

「公僕」や「聖職」と言って特別視するのではなく、他の職業同様に妊娠出産に対応していく必要があるでしょう。そもそも、少子化対策や子育て支援の政策を考えるのに、当事者が意思決定の場に欠けていては問題だと思います。(それを課題と認識してこなかったことが一番の問題かもしれません)

これからの時代、ますます多くの若い女性が政治を志していくでしょう。今回の川田市長の産休取得は、これから政治を志す女性たちにとって貴重な前例になります。応援している人の方が多いと思うので、批判は気にせずにご無事の出産と復帰をお祈りしています。

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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