crumii編集部 ウィメンズヘルス調査隊 #1
「ケープ授乳はダメ」なの? 主要10社に聞いて見えたものとは
カフェで、授乳ケープをつけて赤ちゃんに授乳していたら、店員に「店内での授乳は控えてほしい」と声をかけられた——。そんなSNSの投稿が瞬く間に拡散し、公共の場での授乳マナーについての議論に発展。賛否が激しくぶつかりました。
こちらの記事で宋美玄医師が解説しているように、授乳の間隔は母体の生理によって決まり、「店を出るまで我慢する」ことは簡単ではありません。我慢を重ねれば乳腺炎を患うリスクもあります。
ところで、今回の発端は「店員が授乳を控えるよう声をかけたこと」でしたが、そもそも実際に顧客を迎える飲食店が、客席での授乳をどう捉え、どう対応しているのかについては、ほとんど可視化されていません。
そこでcrumii編集部は、主要な飲食チェーンに直接たずねてみることにしました。
主要外食チェーン10社に、同じ3つの質問を送信
最初にお断りしておきますが、今回の記事はルールの有無やマナーの可否を裁くためのものではありません。「実際のところ、店側はどう考えているのか」を可視化することが目的です。それを踏まえたうえでお読みいただけますと幸いです。
まずは今回の取材方法をお伝えします。
ファミリーレストラン、カフェ、ファストフードなど、子育て世代の利用が多いと思われる飲食チェーンや施設10社に対し、メールまたは問い合わせフォームを通じて、以下の全く同じ3つの質問を送りました。
① 店内に授乳スペースやベビー休憩室などの設備を備えた店舗はございますか。(ある場合は概要もお聞かせください)
② そうした設備のない店舗で、お客様が飲食スペースの客席にて授乳ケープなどを使って授乳される場合について、貴社としてのお考えや対応の方針がございましたらお聞かせください。
③ 子育て中のお客様に向けて、貴社としてお伝えになりたいことがございましたら、ぜひお聞かせください。
結果、10社中、返信があったのは5社。そのうち、3社が具体的な回答を寄せてくれました。
締め切りをタイトに設定したこともあり、踏み込んだ答えを検討する時間がなかったであろうと思われる中、まずは回答を寄せてくださった企業の皆さまに深く感謝申し上げます。
Photo:PIXTA
唯一、正面から答えた「タリーズコーヒー」
そのような状況で、3つの質問全てに唯一、明確に回答してくれたのが「タリーズコーヒー」でした。
まず設備について。親子連れ向けのコンセプト店舗「タリーズコーヒー with U ルミネ池袋店」や、ベビーファーストをコンセプトにした「タリーズコーヒー 高岡おとぎの森公園店」などに授乳スペースを設けているほか、キッズが遊べるスペースやおむつ交換台を備えた店舗も複数あるそうです。
そして、今回の取材の核心となる「客席での授乳ケープの使用」に対する質問にも、以下のように回答を寄せてくれました。
「現在、当社では授乳ケープの使用を制限するといったルールは設けておりません。」
そのうえで、「当社は、日々多様なライフスタイルを持つ数多くのお客様にご来店いただいており、すべてのお客様に心地よくお過ごしいただきたいと願っております。」という会社としての方針を示しました。
さらに、子育て中の利用者へのメッセージとして、
「さまざまな価値観をお持ちのお客様が同じ空間でお過ごしになる以上、すべてのお客様にとって完全にご満足いただける環境づくりは非常に難しい課題ではございますが、お客様同士の相互のご理解とご配慮をお願いするとともに、私どもといたしましても、皆様が快適にお過ごしいただける環境づくりに引き続き努めてまいります」
と結んでいます。
このように、タリーズが「授乳ケープの使用を制限するルールはない」という姿勢を、企業として明言したのは、今回の取材では際立って例外的といえました。
「制限はない」と明確な回答をくれたロイヤルホスト Photo:PIXTA
設備はあるが——「ロイヤルホスト」と「無印良品」
ロイヤルホスト(ロイヤルホールディングス株式会社)と無印良品(株式会社良品計画)も短い期間にもかかわらず回答を寄せてくれました。
ロイヤルホストは、授乳スペースを完備した店舗(あびこ駅前店など)があることを教えてくれました。ですが、「客席での授乳への考え」と、「子育て中の利用者へのメッセージ」については、いずれも「回答は控えさせていただく」との返答でした。
店舗によっては授乳スペースがあるロイヤルホスト Photo:PIXTA
「Café&Meal MUJI」を運営する良品計画は、設備についてより丁寧に答えてくれました。テナントとして入る商業施設では、館内の共用授乳スペースを案内していること。また、かたちや大きさは店舗によってさまざまであるものの、授乳室やおむつがえスペースを併設している店舗もあること。
なお、無印良品における「キッズスペース」とは、授乳室・ベッド・椅子があることで、「授乳室」とはおむつ替え・授乳室・ミニキッチンを備えた設備であること、といった定義も決められているそうです。
「店舗が各地域のコミュニティセンターのような役割を担えたら」という思いを持って設置しているとのことで、子育て世代への姿勢がしっかり伝わってくる内容でした。
それでも、2つ目と3つ目の質問(客席での授乳と子育て中の利用者へのメッセージ)は、やはり「回答は控えさせていただく」とのことでした。
無印良品では入居するテナントが授乳スペースを設けているケースも Photo:PIXTA
迷っているのは現場も同じかもしれない
今回の結果について、あらためてまとめます。
・10社に同じ問いを送って、客席でのケープ授乳という核心に明確な見解を示したのは、タリーズ1社のみ
・ロイヤルホストと無印良品の2社は、授乳が可能な設備について答えた
・残る企業からは、返信はあっても中身のある回答は得られなかったか、期限までに返信そのものがなかった
結果だけを見ると、「外食チェーンは子育て世代に冷たい」と感じる人がいるかもしれません。しかし、決してそのようなことではないと思います。
全国に店舗を展開する企業が即座に回答するのが難しいということは、多くの外食企業には、「客席での授乳」について明文化されたルールがそもそも存在しないのではないか、と推測できます。
ルールがないから、企業として「こうしています」と言葉にできない。言葉にできないから、回答を控える。そして現場ではルールがないまま、その場の店員の判断に委ねられる――こうした状態になっているのではないでしょうか。
思い起こせば、きっかけになった「店員に声をかけられた」という出来事も、おそらくは企業の方針ではなく、現場の裁量で起きたことだった可能性が高いと考えられます。明確なルールがないからこそ、声をかけた店員も、かけられた母親も、その場の空気の中で判断するしかなかったのでしょう。
Photo:PIXTA
今回、回答を寄せてくれた企業でも、授乳ができるスペースを備えた店舗はあります。しかし、全ての店舗に備えるのは不可能ですし、利用者側としても常にそうした設備のある店舗だけをねらって利用するのは困難です。
なぜなら冒頭でもお伝えしたように、授乳の間隔は母体の生理によって決まり、自由にコントロールできるものではないからです。できることなら授乳スペースで落ち着いて授乳したいものの、それがかなわないこともありますし、それ以前に赤ちゃんの側にも、飲みたいタイミングがあります。
設備がその場になければ、選択肢は限られます。だからこそ、設備の有無だけでなく、「設備がない場所でどうするか」への姿勢が問われているのです。それを、現場の店員一人に判断を背負わせるのは難しいのではないでしょうか。

Photo:PIXTA
「制限しない」というルールがある安心
とはいえ、企業がこうしたルールを設定していないこと自体を責める気持ちはありません。多様な顧客が行き交う飲食店で、すべての場面を想定したルールを作ることが難しいのは、想像に難くないからです。
それでも、例えばタリーズのように「こうしてほしい」というルールではなく、「使用を制限するルールはない」と示すだけで、現場の迷いは減る可能性があります。声をかけるべきか迷う店員も、肩身の狭さを感じる親も、その一言があれば、少しだけ楽になれるかもしれません。
それこそが、宋医師が述べた「ケープ授乳をしてよい社会であってほしい」という願いにも通じるのではないかと、今回の取材を通じて感じた次第です。
取材について
取材対象:子育て世代の利用が多い飲食チェーン10社(ファミリーレストラン・カフェ・ファストフード・商業施設系)。電話受付のみの企業は今回の対象に含めていない。
方法:各社のメールまたは問い合わせフォームを通じ、同一の3つの質問を送付。
期間:2026年6月〜(回答期限 6月24日)
掲載した各社の回答は、いずれも掲載前に当該企業の確認・了承を得たうえで公開している。
山本尚恵
医療ライター。東京都出身。PR会社、マーケティングリサーチ会社、モバイルコンテンツ制作会社を経て、2009年8月より独立。各種Webメディアや雑誌、書籍にて記事を執筆するうち、医療分野に興味を持ち、医療と医療情報の発信リテラシーを学び、医療ライターに。得意分野はウイメンズヘルス全般と漢方薬。趣味は野球観戦。好きな山田は山田哲人、好きな燕はつば九郎なヤクルトスワローズファン。左投げ左打ち。阿波踊りが特技。

















