crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #40
高額療養費制度改悪は現役世代、女性の狙い撃ちになるだろう
新年明けましておめでとうございます。
メディアcrumiiは本年も、女性特有の健康課題などについて医学的に正確性の高い情報を発信し、SRHR(セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)に関わる社会問題について解像度を上げて行きたいと思っています。ぜひ本年もよろしくお願いいたします。
さて、2026年最初に取り上げるニュースはこちらです。
高額療養費制度の見直し 自己負担の上限額を最大38%引き上げへ 厚生労働省
今年8月から2年かけて、高額療養費制度の月額自己負担上限が最大約38%引き上げられるとの報道です。平均的な所得区分とされる「年収およそ370万円~およそ770万円」では、ひと月の負担上限額が現在8万100円のところ、8月には8万5800円になります。
さらに、来年8月には所得区分を細分化し、「年収およそ650万円~およそ770万円」の層は負担上限額が11万400円になり、現在よりも約38%も高くなるということです。
一方で、長期治療患者に配慮し「多数回該当」の軽減措置は維持され、70歳以上の外来特例は上限が引き上げられます。
高額療養費制度の上限引き上げは、誰のための制度改正なのか
高額療養費制度の自己負担上限を引き上げるという話は、今回突然出てきたものではありません。社会保障費抑制の必要性を理由に、政府と厚生労働省はこれまで制度の見直しを検討してきました。
昨年、この見直し案が報じられた際には、がんや難病の患者団体などを中心に多くの国民から「命に関わる治療を受けている人の負担を増やし、治療を諦めさせるのか」という強い反発が起きました。その影響もあり、一度は慎重姿勢となっていました。
ところがその後政権が変わり、年末にかけて、2026年8月から高額療養費制度の自己負担上限を段階的に引き上げる方針が固まりつつある、という報道が再び出てきました。最大で3~4割程度の引き上げが想定されているとのことです。現時点では、所得区分ごとの具体的な金額は最終決定に至っていないようですが、引き上げ自体は行われる見込みとのことです。
高額療養費制度の自己負担上限は、原則として前年度の所得によって決まります。つまり、元気に働いて高い収入を得ていた翌年に病気になり、仕事を減らさざるを得なくなったとしても、医療費の自己負担上限は「元気だった頃の収入」を基準に算定されます。
年収が高い層への影響が大きくなる見直しのため、働き盛りの現役世代を狙い撃ちと言えます。一方、高齢者は年金収入が中心で、住民税非課税区分に該当する人も多く、今回の見直しによる影響は相対的に限定的です。
軽症ではなく、深刻な健康状態の人に大きな影響
高額療養費制度が使われる場面は、現役世代で、悪性腫瘍の治療、大きな手術、長期にわたる高額な薬物治療など、寿命やその後の人生に深く関わるケースが中心となることが想定されます。それは皆保険制度で最も救われるべき対象ではないでしょうか。
にもかかわらず、この制度見直しによって削減できる医療費は、政府試算で年間およそ2000億円程度とされています。約50兆円と言われる医療費のうち、たった2000億円。しかも、その中には「受診控えが起きること」を前提とした削減分が含まれているとされています。深刻な健康問題を抱えた人が医療機関への受診や治療をためらわせることで医療費を抑制するという発想は、人間の所業とは思えません。
そして、見過ごされがちなのが性差の問題です。国立がん研究センターなどの統計を見ると、現役世代に限れば、男性より女性の方が、がん罹患数が多いことが分かります。乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんといった女性特有、あるいは女性に多いがんが、ちょうど働き盛りの年代に集中しているためです。加えて、不妊治療など高額な保険診療を受けるのも、主に女性です。高額療養費制度の上限引き上げは、現役世代の中でも、特に女性への影響が大きくなる可能性があります。
乳がんにかかった40代の友人の高額な医療費負担
実例として、40代で乳がんに罹患した私の友人が取材に答えてくれました。友人は、手術と放射線治療に加え、ベージニオという経口の分子標的薬とタモキシフェンを内服しています。この薬は一日あたりの薬価は約15000円ととても高額で、毎月、高額療養費制度の恩恵を受ける額の医療費が発生しています。友人はいわゆるバリキャリで高い収入を前年に得ていたため、自己負担上限は月に約25万円。4ヶ月目からは「多数回」該当となり負担は軽減されますが、治療は2年間続く予定で、年が変わるとリセットされ、また3ヶ月間は上限まで支払う必要が生じます。
治療や副作用のため仕事を減らさざるを得なくなっても、上限額は原則として前年度の収入で決まります。収入急減時の特例措置はありますが、誰もが簡単に適用されるものではないとのことです。
友人が加入している健康保険組合に「付加給付制度」(患者負担を減らすために、健康保険組合などが独自に設けている上乗せ給付。自己負担額が一定額を超えた分を払い戻す仕組みが多い)があり、さらにがん保険にも複数加入していたため、結果的に生活に困ることはないとのことでした。
しかし、付加給付は全ての健康保険組合にあるわけではありません。ここでも、患者間に明確な差が生じます。

手術や高額な医療を受ける可能性は誰にでもあるので、決して他人事ではない photo: PIXTA
医療費を抑制するために、狙い撃ちするのはここでいいのか
限られた財源の中で医療費を抑制し、効率化を図る必要があること自体は否定しません。しかし、軽症例をセルフメディケーションに誘導することや、エビデンスの乏しい医療を見直すこと、効果の薄い保険適用を整理することなど、先に検討すべきことは他にもあります。現役世代の、しかも命に関わる重症例を直撃する制度から手を付けるのは、政策として妥当なのか、慎重な検討が必要ではないでしょうか。
がんをはじめ大きな病気にかかることは、誰にとっても決して他人事ではありません。働き盛りで、教育費や住宅ローンなどギリギリで回しているというような時期にも十分に起こり得ることです。すでに多くの方が声を上げているように、今回の高額療養費制度の上限引き上げ案は、悪影響がとても大きいと予想されます。crumiiでもこの問題については、今後も注視して行きたいと思います。















