男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #19
子どもを暴力から守るために家庭ができること 〜包括的な教育解説シリーズ(4)〜
子どもが安心して成長するためには、知識だけでなく「人との関わり方」を学ぶ機会が欠かせません。とくに思春期は、友人関係・恋愛・SNS利用などが一気に広がり、うれしい経験もあれば、誤解やトラブル、傷つくことも起こりやすい時期です。
そして、反抗期が重なってくる時期にもなります。
だからこそ家庭では、「正解」を教え込むよりも、気持ちの尊重・安全を守る・相談できる関係性などを日常の中で育むことが、将来のリスク予防にもつながるはずです。
本シリーズ記事では、今の時代に求められる包括的な性教育について、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(文献1)をベースに分かりやすく解説していきます。
(編集部注:国際セクシュアリティ教育ガイダンスの日本語版はこちらからご覧いただけます)
本ガイダンスには、8つのキーコンセプトが含まれ、いずれも思春期に学び、考えるべきものになっています。
今回は、「キーコンセプト4:暴力と安全確保」です。
① 「安全」を築く3つのポイント
まず押さえたいのは、子どもの「安全」を守るために重要な3つのポイントです。ガイダンスでも、以下のように3つのポイントが示されています。
1.暴力
いじめ、虐待、性暴力、パートナー間暴力などを幅広く認識する
2.同意・プライバシー
自分のからだに誰がどのように触れられるかを決める権利、望まない性的な扱われ方、同意の確認
3.インターネットにおける安全
ネットは便利だが子どもを含め人が傷つけられるリスクがあること、怖い・不快な経験を信頼できる大人に伝える重要性
家庭では、この3つを別々の話題としてではなく、「境界線(同意・プライバシー)+支援(助けを求める)+環境(オンラインも含む)」という一連のものとして継続的に話してあげると、子どもが理解しやすくなるでしょう。
【家庭でできること】
・「安全=身体だけでなく心と情報も守ること」と伝える
・親子の間の約束ごとは「目的(あなたを守るため)」とセットで説明する
・「話せる・相談できる雰囲気や関係性」を大事にし、責めない聞き方を意識する

② 「これは暴力かも?」に気づく力
暴力は、「殴る蹴る」のような身体的なものだけではありません。
ガイダンスは低年齢でも、からかい・いじめ・暴力を認識し、それらは間違った行為であること、そして「たとえ家族や他の大人からのものであっても、被害者は決して悪くない」ことを学ぶ重要性を示しています。
さらに、子どもへの虐待についても、性暴力やネット上での性的搾取を含めて明らかにし、被害者が悪いのではないこと、信頼できる大人に相談することなどが言及されています。
学年が上がると(9歳以降など)、以下のことが重要であることを理解できるよう少しずつ話してあげましょう。
・性的虐待、セクシュアルハラスメント、いじめ(ネット上も含む)が「人を傷つける行為」である
・これは親しい関係性の相手からでも同様
・被害を受けたと思った場合には信頼できる大人へサポートを求める
保護者として大切にしていただきたいのは、子どもが何かを打ち明けた時に「なぜ避けられなかったの?」と本人に原因があるような反応をしないことです。
子どもにとって最初に必要なのは、「評価・ジャッジ」ではなく「安全確保」です。
【家庭でできること】
・「からかい・いじめ・暴力」の境界を整理する(例:怖い・恥ずかしい・支配される、と感じるのは危険なサイン)
・何かを打ち明けられたらまず「あなたは悪くない」「話してくれてありがとう」と伝える
・家庭内・学校・ネット、どの場でも「こうやって助けを求めるんだよ」と具体例で確認しておく

③ 自分と他者の境界線を守る力
「同意・プライバシー」の土台は、「自分のからだに誰が、どこに、どのように触れることができるかを自分で決める権利がある」という考え方です。
低年齢でも「からだのどこがプライベートな部分か」を知り、不快な触られ方をされたら「いやだ」「さわらないで」と言う、信頼できる大人に相談する、といったスキルが目標に含まれます。
9〜12歳では、望まない性的な扱われ方は「プライバシー」と「自分で決める権利」の侵害であると認識し、アサーティブ(自分と相手を尊重しながら主張する姿勢)に伝える手段が紹介されています。
そして思春期以降(12歳以降など)は「同意」が中心的な要素になります。誰もが性的行為をする・しないをコントロールする権利をもち、パートナーに意思を伝え、相手の同意を確認すべきだという内容です。
具体的に、以下について話す機会を持てると良いですね。
・同意を示したり拒否したりすることや、同意の有無を確認するさまざまな方法を実際にやってみる
・同意が示されている場合、示されていない場合の言動を考えてみる
・同意をきちんと認識したり伝えたりできない状態について考えてみる(酩酊状態やジェンダーに基づく暴力、社会的パワーバランスなど)
同意は「一度OKと言ったら終わり」ではなく、状況や気持ちが変われば撤回できるものです。沈黙やあいまいさは、「同意(YES)」ではありません。
家庭でこの考え方を繰り返し確認しておくと、子どもは他者と対等な関係を築きやすくなるはずです。
【家庭でできること】
・日常の場面で「嫌なら嫌と言っていい」「相手の嫌も尊重する」を練習する
・プライバシーは「わがまま」ではなく、成長に伴う権利として扱う(部屋・身体・情報など)
・「同意は確認し合うもの」を家庭の会話(頼みごとやスキンシップなど)でも実行する

④ デジタルネイティブ時代の注意点
ネットやSNSは、情報収集やつながりの手段であり、とても便利な一方で、人が傷つけられるリスクが存在し、これは子どもも例外ではありません。
低年齢でも、不快な・怖い体験をしてしまった・見てしまった場合に、信頼できる大人に伝える方法を話しておきましょう。保護者が知らぬ間に、性的なコンテンツや暴力的な映像をたくさん目にしてしまっているということも現実には起こっています。
9〜12歳では、SNSの使用には特別な注意が必要であり、どんな情報を誰と共有するかを自分で適切に判断し決める力が求められます。
また、ネット広告やSNSを通じて表示されるコンテンツは、時に有害なジェンダーステレオタイプ(固定観念)を生んでしまいます(ゲームの攻略記事などにもエロ系の広告がたくさん表示されることもあり、小学生でも目にする機会が少なくないように感じています)。
15歳以上についてはガイダンスでもより具体的に記載されており、以下についてしっかり理解してもらうことが不可欠な時代と言っていいでしょう。
・性的コンテンツがジェンダー、性的行動、性的反応、体型などについて非現実的な期待を生み出す可能性
・有害なジェンダーステレオタイプは、暴力的または性的同意のない性行為を普通のことだと誤解させてしまう可能性
・さらには自分に対するイメージや自信、自尊心などにも悪影響を与える可能性

保護者が知っておきたいのは、オンライン上の被害は「画面の中で終わらない」ことです。画像や個人情報の拡散、脅し、嫌がらせ、なりすましは、長期間にわたって日常生活における心理的安全を大きく損ねます。
子どもが何かに困っている・荒れている様子を感じたら、「スマホを取り上げる」「責めるように聞き出す」のではなく、「一緒に困りごとを認識し、安全を取り戻す」ために動くことが大切です。
【家庭でできること】
・「親から伝えなければ性的な情報に触れないはず」という思い込みは捨てる
・共有の基準を作る(名前・学校・位置情報・顔写真など、ネット上に絶対出さない情報を決める)
・SNSなどで「会おうよ」「写真送ってよ」と言ってくる人は「同年代のように見える」アカウントでも警戒することを教える
⑤ 年齢別に伝えておくべき要素のまとめ
年齢別にどこまで話すかのイメージを再確認しておきましょう。

・5〜8歳
いじめや暴力は間違いで、被害者は悪くない
プライベートゾーンを知っておく
嫌なボディタッチ・触られ方は拒否する
・9〜12歳
望まない性的な扱われ方
プライバシー侵害やネット上のいじめも含めた「助けを求めることの大切さと方法」
・12〜15歳
いじめ、心理的・身体的暴力、性的虐待・性暴力、親密なパートナー間暴力は人権侵害である
信頼できる大人への相談や通報する手段・方法を知っておく
・15〜18歳以上
同意を認識する力に影響する要因(アルコール、力関係など)を理解する
より安全な意思決定を行うことの重要性(短期的・長期的な影響)を知る
「上記のことを全て完璧に教える」というよりも、その年齢において必要な安全と尊重を守ることが目的だと考えてみましょう。
よくある不安Q&A

最後に、私が親御さんからよく質問を受ける内容について、Q&A形式で整理してみます。
ぜひ参考にしてください。
Q:暴力の話をすると、子どもが怖がりませんか?
A:怖がらせることが目的ではなく、「嫌だと言っていい」「助けを求めていい」を知ってもらうことが目的です。低年齢でも「暴力とは何か・安全な行動とは何か」を伝えることが学習目標に含まれています。
Q:スマホはどこまで管理すべき?
A:年齢によりますが、ポイントは「監視する」ではなく「一緒に安全を保つ」ことです。データや情報の共有範囲を決め、怖い経験をしたときに親が味方でいると示すほうが、子どもは小さなことでも相談しやすくなるはずです。もちろん、不適切なサイトや有害アプリケーションから子どもを守るフィルタリング機能やサービスを活用することも有効ですが、これだけで安心はできないことを覚えておきましょう。
Q:性的同意の話は、小中学生には早いのでは?
A:性的同意の本質は「性の話」以前に、「自分のからだは自分のもので、境界線(バウンダリー)がある」という人間関係の基本を学ぶことです。低学年なら「嫌な時は嫌と言っていい」「相手が嫌がったらすぐ止める」といった日常の「尊重」から教えてあげましょう。これは自分を守り、相手を傷つけないためにとても重要であり、小中学生だとしても早すぎることはありません。そして、学校でも例えば「同意なき撮影・画像拡散」は残念ながら日常的に起こっている、またはそのリスクが常に存在することを忘れてはいけません。
以上、包括的な性教育における「キーコンセプト4:暴力と安全確保」について知っておきたいポイントを紹介しました。
キーコンセプト4は、暴力を減らし、被害を防ぎ、尊厳が守られる安全な環境の実現に向けて声を上げる重要性も示しています。
家庭ができるもっとも大きなサポートは、子どもに「違和感を大事にしていい」「境界線を守っていい」「困ったら必ず助けを求める」と伝え続けることです。日常の小さな積み重ねが、子どもを暴力の被害や孤立から守ることにつながるはずです。
ぜひ、本記事をご家庭や学校等でご活用いただければ嬉しいです。
*私のニュースレターでも性教育の参考になる記事を配信しています。ご興味があればぜひ読んでみてください。
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参考文献
WOMEN, U. N., et al. International technical guidance on sexuality education: an evidence-informed approach. UNESCO Publishing, 2018.















