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crumii編集長・宋美玄の炎上ウォッチ #05

「介護脱毛」についてのSNS投稿に思うこと。不安を煽り、必要性の低い需要を作り出すことは、SRHRの観点からも問題視されるべき

更年期以降は性ホルモン(女性ホルモンと男性ホルモン)の低下により、アンダーヘアは薄くなる

今回の炎上ウォッチは、介護脱毛についてです。介護脱毛については連載第2回小陰唇手術に関する医師の投稿が炎上。ルッキズムやコンプレックス商法の「安易な美の押し付け」への社会的反発が高まっている」でも少しだけ触れていましたが、先日「有益な情報なのでシェアします。将来介護される時にアンダーヘアがあると邪魔で介護士の方に迷惑がかかるので、脱毛しておきましょう。白髪が出てくるとレーザー脱毛しにくくなるので、早めがおすすめ」という旨の投稿がXでありました。

 

介護脱毛は、SNSで度々話題になるトピックです。結論から言うと、女性の場合、更年期以降は性ホルモン(女性ホルモンと男性ホルモン)の低下により、アンダーヘアは薄くなりますので、30代、40代で濃い人でも高齢になると薄くなってきます。妊娠出産をしたことのある方なら、妊娠中はアンダーヘアをはじめ体毛が濃くなってきて、産後にさーっと抜けて「疎」な感じになったという経験がある方も多いのではないでしょうか。

 

当該の投稿にも、「介護される年齢になる頃には薄くなっているので大丈夫」「そんなに気にならないですよ」という介護する側の方のコメントが多くついていました。

 

また、整形外科医のおると先生と消化器外科医の山本健人先生(外科医けいゆう先生)のこちらのやりとりもかなりの反響です。

 

 

確かに、なるべく長い間自立して生活できて、介護が不要であることが一番理想ですし、介護する側からするとアンダーヘアの多さよりも体重の方が死活問題ですよね。

 

アンダーヘアがない方が良いと純粋に思うのであれば、脱毛を選ぶことはからだの自己決定権の一つ

そもそもの大前提として、アンダーヘアはなくても問題ありません。「大切なところを守るためにあるから、アンダーヘアを脱毛するのは良くない」と考える方もいるかもしれませんが、実際にはワキ毛は多くの人が脱毛しています。体毛はもともと保温のために存在していますが、文明の進化により服装で温度調整が可能となり、必ずしも必要ではなくなりました。

 

脇 女性 脱毛
photo:PIXTA

 

アンダーヘアがあることで、蒸れやすくなったり、おりものが付着して不潔になりやすくなったり、デリケートゾーンのトラブルの原因になることもあります。産婦人科医として診察をしている中でも、アンダーヘアを脱毛または減らしている人は確実に増えていると感じています(都市部だからという要因もあるかもしれません)。

 

最も大切なのは、自分自身にとってアンダーヘアがない方が快適であると感じるかどうかです。今の自分にとって、あるいは将来他人にデリケートゾーンを見られる可能性があると考えた時に、アンダーヘアがない方が良いと純粋に思うのであれば、脱毛を選ぶことはからだの自己決定権の一つです。

 

介護脱毛は、コンプレックス商法の一種。不安を煽り、現場では必要性の低い需要を作り出すことは、SRHRの観点からも問題視されるべき

しかしその一方で、他人や商業広告などが「介護脱毛」を強く勧めることには違和感を感じます。介護脱毛は、コンプレックス商法の一種と捉えられる面があり、「将来」「他人に迷惑をかけるかもしれない」といった不安を煽られることで、「今の自分は困っていないが、やらなくてはならない」と思わされる人も少なくありません。

 

不安を煽り、現場では必要性の低い「介護脱毛」という需要を作り出すことは、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)の観点からも問題視されるべきです。

 

おると先生やけいゆう先生が指摘されているように、健康を維持し、できるだけ自立した生活を続けること、そして体重を増やしすぎないことの方が、はるかに重要です。女性は高齢になると男性よりも骨折しやすく、骨折がきっかけで寝たきりになるケースも多くあります。したがって、骨折予防は非常に大切です。40代からは骨密度を意識し、適度な運動やカルシウム摂取を心がけ、更年期以降にエストロゲンが低下してきた際には、HRT(ホルモン補充療法)を検討することも効果的です。

 

【更年期の「カラダが!ナツにな!る!」のを防ぐ?41歳で閉経した医療ライターが「 HRT(ホルモン補充療法)」を解説】

 

介護を受けるのは女性だけではありません。肛門付近のアンダーヘアは男性の方が多い傾向にあると思うのですが、「介護脱毛」という話題では、当事者意識を持つのが女性ばかりというのは不思議に感じます。これは、日本の女性が「他人に迷惑をかけてはいけない」というプレッシャーを強く感じがちなことと関係があるかもしれません。

 

女性のみなさんには、他人の視線や意見を気にしすぎるよりも、自分のからだのことは自分で決めるという意識を持っていただきたいです。そして、健康に留意し、自立した生活をできるだけ長く続けられるよう、産婦人科でお手伝いできることを届けたいです。

 

【crumii編集長・宋美玄の炎上ウォッチ バックナンバー】 

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