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宋 美玄のニュースピックアップ #20

43歳で妊娠した倖田來未さんに祝福の声。2回の高齢出産を経て思うこと

 

お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんのイラスト

43歳で妊娠は、すごくラッキーなこと

今回のニュースピックアップでは、倖田來未さんが43歳で第2子の妊娠を発表されたことについて取り上げたいと思います。43歳で妊娠というのは、もうそれだけですごいことです。やっぱり誰もがその年齢で妊娠しようと思ってできるわけじゃないので、すごい珍しいわけじゃないけど、やはりとてもラッキーな方だと思います。おめでとうございます。

そしてこのニュースとセットで、2008年の「35歳を過ぎると羊水が腐る」という過去の発言がまた掘り起こされています。18年も前のこと、みんなまだ覚えてるんだ、というのが正直なところです。そんなに蒸し返さなくてもとは思いますが、せっかくなので、産婦人科医として、そして自分も35歳と39歳で2回の高齢出産をした当事者として、この機会に高齢出産について書いてみようと思います。

「羊水が腐る」は本当なの? 

結論から言うと、羊水そのものが年齢によって変わるということはありません。

ただし、年齢とともに妊娠しづらくなったりすること自体は医学的な事実としてあります。35歳になった瞬間に何かが劇的に変わるわけでも、34歳なら全く問題ないというわけでもなく、変化はもっと緩やかで連続的なものです。当時の私は「そもそも高齢出産について正しい知識が世間にあんまり浸透していないんだな」と思いました。

2008年から2026年へ。18年で変わったこと、変わらないこと

「卵子老化の衝撃」が日本を変えた

あの発言があった2008年、私はすでに産婦人科医として働いていました(2001年から産婦人科医をしています)。当時32〜33歳くらいだったと思いますが、先に出産した友達に「35過ぎたら羊水腐るよ」と言われてびっくりしたことがあります。ちょうどロンドンへ留学しようかなと考えていた時期でした。

その後、社会の認識を大きく変える出来事が続きました。2011年に野田聖子さんが50代という超高齢出産をされ、2012年にはNHKスペシャル「卵子老化の衝撃」が放映されました。高齢になると妊娠しにくくなるという内容が、大きな衝撃をもって受け止められたのです。

周産期医療のど真ん中にいた私からすると、高齢になったら妊娠しにくくなるということを知らなかった人がこんなにいたのかということのほうが衝撃でした。その頃に比べると、今は高齢出産に伴うリスクの周知はかなり進んだと思います。

不妊治療が進歩し、卵子凍結も身近に

2008年から2026年の間に、不妊治療は大きく進歩しました。ほとんど行われていなかった卵子凍結も、現在は未婚の方でもできるようになっています。40歳以上の方の不妊治療の成績も向上しているし、制度面でも経済的な支援も広がったこともあり、選択肢は確実に広がっています。

倖田來未さんが不妊治療をされたかどうかは分かりませんが、こうした医療の進歩があったうえでの43歳の妊娠であることは、多くの方にとって希望になるのではないかと思います。

試験管を持った白衣の医療従事者

「自己責任論」という新たな壁

ただ、リスクの周知が進んだことで、別の問題が出てきたとも感じます。
昔は、芸能人が40代で妊娠したニュースが出ると「まだまだいけるやん」という空気感でした。でも高齢出産のリスクが知られるようになると、今度は「リスクがあるのに早く産まないのは自己責任」という論調が出てきました。

でも、1人で産みたいと思ったからといっていきなり環境が整うわけではありません。パートナーの有無、経済状況、キャリア、家族の事情など、色々な要因があります。産む側の女性にばかり「早く産め」と言ってもしょうがない。「高齢出産にならないようにしなくちゃ」という風潮は、一種のエイジズム(年齢差別)にもつながっているのではないかと感じています。

35歳と39歳、2度の高齢出産

私自身の話をすると、私は35歳と39歳で2回出産しており、どちらもいわゆる高齢出産です。ありがたいことに、妊娠自体はすぐにできました。ただ、妊娠糖尿病になってずっとインスリンを打っていたし、体重もかなり増えました。妊娠糖尿病は年齢によってリスクが上がるものなので、高齢出産ならではの大変さがあったとすれば、そこだったのかなと思います。
20代で産んでいたらどれくらいしんどかったのか比べようがないですが、たくさん出産の現場に立ち会ってきた私からしても、出産って結構しんどいな、というのが素直な感想です。

高齢出産のメリットとは

とはいえ、高齢出産ならではのメリットもありました。
35歳までにそれなりの人脈や人的資産ができていたので、「この人に頼もう」「この会社を紹介してもらおう」ということができました。経済力も20代の頃よりはそれなりにあったので、シッターを頼むハードルも低かった。人に頼れるところは頼む、お金で解決できることはお金を使う。そういう選択肢があったおかげで、子育てが楽になった面は確実にあったと思います。
なので、つい最近まで私は「高齢出産はパワーで乗り切ればそんなに大変じゃない」と思っていました。

想定外だった「更年期×反抗期」のダブルパンチ

その考えを覆されたのは、ここ数年のことです。
子どもが思春期に入り、反抗期を迎えました。それと同時に、私自身がアラフィフで更年期に差しかかった。更年期と反抗期の同時進行です。これが本当にしんどい。子供が小さかった頃とはまた違うしんどさで、毎日生きるのが精一杯、という感じです。
20代で早めに産んだ友達はもう子どもが成人したり、大学で遠くに行って手が離れたりしていて、正直、いいなと思います。

なので、声を大にして言いたいのですが、積極的に高齢出産はお勧めしません。

中学生の娘に怒る母親

「奴隷と王様を兼ねてます」更年期と反抗期のリアル

子どものプライバシーがあるので詳しくは書きませんが、かなり個性的な子たちを授かっており、めちゃくちゃ吹っかけてくるし、何か言うとキレるし、お金はめちゃくちゃせびってくるし。私は奴隷と王様を家で兼ねているような状態です。
更年期のせいか虫の居所が悪くて、一度めちゃくちゃキレ散らかしたことがあって、その後ちょっとマシになったのですが、1回しか効かない。毎日のようにキレまくっていたら、ただ家の治安が悪くなるだけなので意味がありません。

その時のことは過去に書いたので良かったらこちらの記事を見てみてください。
ミレーナを抜いたら娘の反抗期がマシになった話

だったら更年期の方をなんとかするしかない 

反抗期は子どもが成長するまで向き合うしかありません。どうしようもない。であれば、自分でコントロールできる更年期のほうをなんとかしようと思いました。
ホルモン補充療法を受けたり、運動したり、美味しいものを食べたり、自分の時間を意識的に作ったり。更年期の患者さんと診察室で「分かる、辛いよね」と共感し合う更年期トークに救われることもあります。そういったことで、なんとか凌いでいるのが現状です。

まとめ|高齢出産は、良し悪しでは語れない

さて、倖田來未さんの妊娠をきっかけに、改めて高齢出産に注目が集まっています。「羊水が腐る」は医学的には正しくない。でも、年齢とともに妊娠しづらくなることは事実としてあります。その反面、高齢出産には人脈や経済力といったメリットもあり、不妊治療も年々進歩しています。思春期の子育てと更年期が重なるという、あまり語られないしんどさもあることを痛感しています。

大切なのは、正しい知識を持ったうえで、それぞれの人生のタイミングで選択をすることだと思います。その選択を、自己責任で片づけない社会であってほしい。18年前の発言を蒸し返すより、いま目の前にある妊娠を素直に祝福できるような、健全な社会であってほしいと思いますし、産婦人科医として、妊婦さんや赤ちゃんの力になりたいと思います。

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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