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crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #38

世界エイズデーに寄せて ―歴史と誤解、予防・早期発見の大切さについて―

12月1日は、WHO(世界保健機関)が定める世界エイズデー(World AIDS Day)です。HIVやエイズに関する正しい理解を広め、支援の輪を広げていくとともに、亡くなった方々を追悼し、今も治療を続ける人々を支えるための日として迎えられています。


1980年代に見つかった比較的新しい病気

1981年、アメリカで原因不明の免疫不全症状を示す症例が相次いで報告されました。これが後に「エイズ(AIDS)」と呼ばれる病の始まりでした。エイズとは「後天性免疫不全症候群」のことで、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染し、治療を受けないまま時間が経ち、免疫が大きく低下した状態を指します。

1980年代当初は治療法も確立されておらず、感染の告知は「死の宣告」と受け止められることも少なくありませんでした。しかし原因ウイルスであるHIVの発見、研究の進展、1990年代後半の多剤併用療法(ART)の登場によって状況は大きく変わります。

現在では、HIV陽性であっても治療を継続することで、平均寿命に近い人生を送ることも可能となりました。さらに「ウイルス量が検出限界以下であれば、他者に性的に感染させることはない」とされるU=U(Undetectable = Untransmittable)の概念も広まり、科学的な根拠に基づく理解が世界中に浸透しつつあります。


それでもなお、HIV/エイズには誤解や偏見が根強く残っています。日常生活の中で感染してしまうのではないかという不安はよく耳にしますが、握手や会話、同じ食器やプールの共有でHIVが感染することはありません。また「感染したらすぐにエイズを発症する」といった誤解も依然として広がっていますが、治療を継続すれば発症を防ぐことができます。

 

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不治の病という根強い誤解

一方で、「HIVは不治の病だから、もし感染していたら絶望するしかない」「だからこそ検査を受けるのが怖い」という声も少なくありません。しかし現実はその逆で、HIVは早く見つかれば見つかるほど治療がしやすく、早期に治療を始めれば天寿を全うするまで健康に生活することもできます。 そしてこれは本人だけでなく、大切なパートナーを守ることにもつながります。 治療でウイルス量を抑えられれば、他者へ感染させる可能性は極めて低くなり、妊娠・出産における母子感染の予防にもつながります。pixta_76041733_M.jpg
 

誤解や偏見は、感染者だけでなく、感染者が周りにいない一般の人たちにも影響があります。エイズに対し偏見がある社会では、検査を受けることを躊躇してしまい、結果として感染が見過ごされてしまいかねません。

実際、「性感染症が心配です」と言って来られる患者さんの中にも「HIVは怖いから検査をしたくありません」という方は散見されます。検査を忌避することは、早期治療の機会を逃したり、知らないうちに他者へ感染させてしまうことにもつながります。

HIVは特定の人性的指向や背景のある人だけが感染するものではなく、安全でないセックスという行動によって誰にでもリスクが生じうる感染症です。だからこそ、正しい情報に基づいて自分自身を守り、周囲をも守る意識が重要です。
 

予防は難しくない 基本はコンドーム

HIVの予防は決して特別なことではありません。コンドームを適切に使用することは基本的かつ確実性の高い予防法ですし、定期的に検査を受けることは、自分の健康を管理する上で非常に有効です。多くの自治体では匿名・無料で検査を受けることができます。

さらに、HIVに感染していない人が感染を防ぐために薬を事前に服用するPrEP(プレップ)も広がりつつあり、感染リスクをより低く抑える手段として認知が進んでいます。

そして、HIV陽性の人が治療を継続しウイルス量を検出限界以下に抑えることは、自分の健康と生活を守るだけでなく、他者への感染を予防するという点でも大きな意義があります。pixta_47783591_M.jpg
 

こうした取り組みを支えるためには、性に関する正しい知識と、偏見のない対話が社会全体に必要です。誤った情報や根拠のない不安を取り除き、理解し合える環境が整ってこそ、HIVとともに生きる人々を支える土壌が生まれます。


世界エイズデーは、単にエイズについて学ぶ日ではなく、歴史を振り返り、社会に残る誤解や偏見を見つめ直すための日です。私たち一人ひとりが正しい情報を手にし、誰もが尊厳を持って生きられる社会を目指して歩みを進める日なのです。

HIVはもはや「不治の病」ではありません。私たちが本当に向き合うべきは、無知や偏見、誤解によって生まれる心の壁です。それらを乗り越えたとき、社会はより包容力のあるものになり、HIVに関する問題は確実に改善されていくでしょう。

世界エイズデーの今日、ぜひ誰かにエイズに関する知識を伝えてみてください。そして、コンドームなどで確実に予防すること、心当たりがある人は検査を受けてみること、小さいけれど今日から行える一歩を踏み出してみてください。

【参考文献】

World Health Organization(WHO)“World AIDS Day – 1 December”
https://www.who.int/campaigns/world-aids-day
 

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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