
手術? 薬? それとも経過観察? 産婦人科医と考える、私らしい「子宮筋腫」との付き合い方
子宮筋腫が発見された場合、どのような治療方法が考えられるのでしょうか。手術が必要なのか、薬で対処できるのか、それぞれの治療法について悩む方も多いかもしれません。子宮筋腫は良性の腫瘍であり、進行が遅いため、治療の選択肢が複数存在します。その特徴や患者さんの心構えについて、専門医の松岡和子先生に詳しく伺いました。(この記事は全2回の第2回目です。第1回目を読む)
要注意!子宮筋腫にまつわる2つの「誤解」
子宮筋腫の治療を考える上で、多くの患者さんが抱きがちな「誤解」が2つあると松岡先生は指摘します。
誤解①:「筋腫があっても放っておいてOK」
子宮筋腫は良性腫瘍のため、見つかってもすぐに手術などは行わず、「経過観察」となることがよくあります。これを「何もしなくていい」と自己判断し、何年も婦人科から足が遠のいた結果、貧血などが重症化してしまうことがあるのです。
のちほど詳しく解説しますが、経過観察は決して放っておくことではありません。「子宮筋腫は放置でOK」というのは、大きな誤解です。
誤解②:「一度手術で切除したら、もう再発しない」
「手術で子宮筋腫を取ったら終わり」と思っている方は意外と多いのですが、子宮がある限り、筋腫が再発する可能性は十分にあります。珍しいものではありません。
「生理がある間は、またできる可能性がある」と考えておくのがよいでしょう。
「経過観察」は放置じゃない、れっきとした治療法の一つ
さて、ここからは子宮筋腫の治療法について解説していきます。
子宮筋腫の治療法を解説する上で、まず理解しておきたいのが「経過観察」です。これは、投薬や手術は行わず、定期的な検査で病状の変化を見守るという治療法の一つです。その観察間隔は、患者さんの状態で変わります。
「観察期間は『1年後』または『半年後』となることが多いです。1年後で良いのは、筋腫が月経に影響しない場所にあり、多少大きくなっても日常生活に支障が出る可能性が低いと予想される方です」(松岡先生)
一方、半年もしくは半年以内の経過観察が推奨されるのは、月経が増えてもおかしくない粘膜下や筋層内筋腫がある場合や、筋腫が10cmを超えるなど、ある程度大きい場合です。これらの場合は治療を要する状況になり得るので、より短い期間で変化を追う可能性があります。
子宮筋腫は、女性ホルモンであるエストロゲンの影響を受けるため、月経が続いている間は増大する傾向があります。ただし、急激に成長することは稀です。したがって、月経周期に影響を及ぼさない場合は、年に一度程度の定期検診を行い、筋腫の状態を評価することが推奨されます。
経過観察中は「症状の変化を見逃さない」こと
経過観察中に患者が注意すべき点について、松岡先生は以下のように話します。
「症状の変化に注意を払うことが重要です。月経量の増加、月経期間の延長、下腹部痛の悪化などが確認された場合、予定よりも早く受診することが推奨されます。また、貧血症状(立ちくらみ、息切れ、疲労感)が強くなった場合も、早めの相談が必要です。体が症状に慣れてしまい、徐々に悪化していることに気づかない場合があるからです。」
女性ホルモンを薬でコントロールする「ホルモン療法」
ホルモン療法は、手術の前の選択肢となる治療法です。ピルなどの薬(ホルモン剤)で月経量をコントロールして貧血などを改善し、QOL(生活の質)を上げるのが主な目的です。
ただし、子宮筋腫のホルモン療法には注意も必要です。
「ホルモン療法は、あくまで”症状を抑えるもの”。子宮筋腫は女性ホルモンの一種であるエストロゲンによって大きくなります。そのため、『薬を飲んでいるのに筋腫が大きくなった』と不安に思われる方もいますが、これは治療の失敗ではなく、筋腫の自然な経過です」(松岡先生)
この特性を認識した上で、自分にとってメリット・デメリットをかかりつけの医師とよく相談することが重要です。
体への負担も軽減。進化し続ける「手術」
子宮筋腫の手術には、お腹に小さな穴を開けて行う「腹腔鏡(ふくくうきょう)手術」と、お腹を切開する「開腹手術」があります。
・腹腔鏡手術:傷が小さく、術後の回復が早いのがメリットです。 一方で、手術中にお腹を直接触って確認することができないため、小さな筋腫を見つけにくいという側面もあります。
・開腹手術:筋腫がたくさんある場合など、くまなく取り除くことを優先する場合に選択されます。「『傷が大きい』『痛みが強い』というイメージがありますが、麻酔や術後管理の進歩で、体への負担は以前より大きく軽減しています」(松岡先生)
筋腫はすべて取り切る必要がある?
手術では、無数にある子宮筋腫を可能な限り多く切除することを目指します。ただし、すべての筋腫を取り除くことは不可能で、またその必要はありません。月経に影響しない場所にある筋腫については、経過観察を継続する場合もあります。
重要なのは、患者の症状と生活への影響度です。日常生活に支障をきたすレベルの症状があるか、将来的に妊娠を希望しているか、といった要素を総合的に判断して手術を行うかどうか、そしてそのタイミングを決定します。
話題の「切らない治療」、その現状は?
近年、UAE(子宮動脈塞栓術)やFUS(集束超音波治療)といった「切らない治療」も注目されています。
・UAE(子宮動脈塞栓術):保険適用にもなっている治療の一つ。筋腫に栄養を送る血管を詰まらせる方法で、特に出血に困っている人には有効な場合があります。ただし、筋腫そのものは残り、どのくらい小さくなるか、予測が困難です。また、血流を減らすことで筋腫が腐って(壊死して)しまうリスクもあり、結果的に手術が必要になることもあります。どうしても手術に抵抗がある方以外は、積極的に選ばれる方はそれほど多くありません。
・FUS(集束超音波治療):MRIで筋腫を確認しながら、高周波の超音波を照射して、その熱エネルギーで子宮筋腫の細胞を壊死させ、筋腫を縮小させる治療法です。実施できる施設が非常に少なく、治療の対象となる条件(筋腫の場所や性質)もかなり厳しいため、選択肢としてはかなり限定的な治療法です。現在のところ、多くの患者さんにとって現実的な選択肢とは言い難い状況です。技術の進歩により将来的には普及する可能性もありますが、現段階では限られた症例での適応に留まっています。
もしも治療に迷ったら? 医師からのアドバイス
こうしたさまざまな選択肢を前に、どの治療法を選ぶべきか迷うこともあるでしょう。松岡先生は、医学的な観点だけでなく、患者さんの生活スタイルや価値観を十分に考慮することが重要だと語ります。
「治療方針を決める際は、医学的な観点だけでなく、患者さんの生活スタイルや価値観も十分に考慮する必要があります。仕事の都合、家族の状況、経済的な面など、いくつもの要素を総合的に判断して、その人にとって最適な選択肢を見つけることが重要です」(松岡先生)
妊娠を希望するかどうかも、治療法の選択に影響を与える要素です。
「子宮筋腫があっても必ずしも妊娠できないわけではありませんが、筋腫の場所や大きさによっては妊娠や出産に影響を与える可能性があります。妊娠を希望される場合は、早めに専門医に相談し、適切な治療計画を立てることが重要です。
特に35歳以上で妊娠を希望される方は、治療のタイミングが重要になります。筋腫の治療と妊活のバランスを考慮し、最適なスケジュールを立てるために、生殖医療の専門家との連携も必要になる場合があります」(松岡先生)
まとめ:一人で抱え込まないで。婦人科医は「一緒に考えるパートナー」

子宮筋腫は多くの女性が経験する疾患ですが、適切な知識と治療により、日常生活への影響を最小限に抑えることが可能です。
極端な意見として「放っておいていい」や「手術しかない」といったものがありますが、子宮筋腫がある状態を前提に閉経までの期間、月経との付き合い方について婦人科医と相談し、それぞれに一緒に考えていくのがよいでしょう。
子宮筋腫との付き合い方は、一人ひとり違います。最後に松岡先生はこう語ってくれました。
「私たち医師は、皆さんにとって”一緒に考えるパートナー”です。患者さんのライフスタイルや価値観を尊重しながら、医学的に最適な治療を提案します。遠慮なく質問し、不安や希望を率直に伝えてください。十分な情報共有と信頼関係があってこそ、最適な治療選択が可能になります。
一人で抱え込むと、生活に支障をきたしたり、ネットで知った情報に一喜一憂したりしてしまいます。子宮筋腫があっても、適切な管理により充実した生活を送ることは十分可能です。一人で抱え込まず、専門医とともに最適な治療方針を見つけ、前向きに対処していきましょう」(松岡先生)
まずは定期的な検診の受診と、不安や疑問があった時に「一緒に考えるパートナー」として頼れる、かかりつけの婦人科医探しから始めてみてはいかがでしょうか。
〈参考文献〉
・”産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2023”. 日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会
・"今日の臨床サポート|子宮筋腫". エルゼビア
https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1720, (参照 2025-06-27)
・"今日の臨床サポート|過多月経". エルゼビア
https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1705, (参照 2025-06-27)
〈監修者プロフィール〉
松岡 和子(まつおか・かずこ)
杏雲堂病院 産婦人科医。滋賀医科大学医学部卒業。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医・指導医。婦人科腫瘍を専門とし、子宮筋腫や卵巣腫瘍など良性・悪性腫瘍の診断と治療に長年従事。腹腔鏡手術をはじめ、患者一人ひとりの状況とライフプランに寄り添った、丁寧な医療を提供している。
山本尚恵
医療ライター。東京都出身。PR会社、マーケティングリサーチ会社、モバイルコンテンツ制作会社を経て、2009年8月より独立。各種Webメディアや雑誌、書籍にて記事を執筆するうち、医療分野に興味を持ち、医療と医療情報の発信リテラシーを学び、医療ライターに。得意分野はウイメンズヘルス全般と漢方薬。趣味は野球観戦。好きな山田は山田哲人、好きな燕はつば九郎なヤクルトスワローズファン。左投げ左打ち。阿波踊りが特技。