「あるある」じゃ済まされない? 本当にあった産婦人科でのトンデモ話 #12
「デブ!」「母親になる資格ない」——暴言が飛び交う産婦人科、それでも2人産んだ理由
「豆腐しか食わなくてもいい!! 死なないから!!」
「フルーツ? 果糖だから、妊娠中はだめ。蒸し料理とワカメスープだけで過ごせ」
厳しい指導と強烈な説教がデフォルトだという、都内の某クリニック。そこでお産をしたと話してくれたのは、30代の千絵さん(仮名)だ。そのクリニックを選んだ理由は、「単に家から近かったから」だという。
「初診で『変な医者だな』と思いました。『デブ!』『ばか』『母親になる資格がない』と言われ、『は?』と思ってGoogle口コミをチェックしてみたら……想像以上にすごかったです(笑)。しかしそれから転院するのも面倒だったので、家からのアクセスを優先し、結局我慢して通い続けました」
暴言連発の産婦人科医は、その産婦人科クリニックの院長でもあった。後に集めた情報によると、多くの人が「妊娠から出産まで、体重の増加はプラス5kg以内におさめろ」と指導されるという。しかし5kgきっちりまで増やすと、「多い!」と叱られるそうだ。千絵さんは妊娠期間中、必死にプラス1kg増でおさえて出産を終えたと話す。今から2年前の話である。
デブだのバカだのといった、めまいがするような暴言は横に置いておいても(置いておけるものではないが)、「5kg以内」というのはどういうことだろう。現在の一般的な指針では、「普通体重」で10〜13kg程度の増加が目安とされるはずだ※1。
その内訳は、赤ちゃんが約3kg、胎盤0.5~0.7kg、羊水0.5~1kg、血液などの増量で1.5~2.5kg、子宮の増大約1kg、乳房の増大約1kg、脂肪蓄積2~3kg……といったところだろう。肥満の場合はありえる指導だが、一般にはあまり当てはまらない。
※1:指針の基準は、日本産科婦人科学会や日本産婦人科医会によるもの。
妊娠前のBMI別推奨体重増加の目安は次の通り(多胎児などは別基準)。
やせ(BMI < 18.5)→12~15kg
普通(BMI 18.5≦ ~ <25)→10~13kg
肥満1度(BMI 25≦ ~ <30)→7~10kg
肥満2度以上(BMI 30≦ )→個別対応(おおむね5kg前後)
「院長ヤバかったよね!」同じクリニックで産んだママ仲間の証言
出産後は、赤ちゃん、羊水、胎盤が出ていくことでざっくり4kgは減る。仮に5kg増でお産を終えたとすると、残りの増加分はたった1kg。しかし前述の通り、血液・子宮・乳房・脂肪などの増加分だけで軽く5kgを超える。つまり母体の組織がマイナスになる計算であり、単純計算&素人考えながら心配になってくる(胎児の発育不全とか)。
「検診の日が近づくと、体重が増えてたら怒られる!と、蒸したさつまいも&海藻きのこスープの生活です。そして検診後は1日だけ、ラーメンやマックをドカ食いしてました。妊娠中でメンタルも体調も不安定な中、我慢が多い過酷なダイエットのような生活で、しんどかったです……」

ただでさえ不安定な妊娠期のメンタルに、過度な食事制限のストレスが重なる
産後の地域交流の中で、同じクリニックで出産した仲間に10人ほど出会った。すると決まって「院長ヤバかったよね!」と盛り上がるという。つまり、誰にでもこうした対応をしているのだ。
「みんなが口をそろえていうのは、もちろん体重管理についてです。体重が1kgでも増えると『赤ちゃんを殺す気か!!』と院長から怒られる。友達は体重42kgのスリムな体型なのに、『太り過ぎ!』と言われていました(笑)。」
逆に身長何cm、体重何kgの妊婦なら納得するのか聞いてみたい。
しかも体重管理以外の診察では、声が小さくて何を言っているかわからない始末で、診察にあたる院長は、いつも不機嫌でイライラしていたそう……。
「口コミにいいこと書いておいて」――自分には甘い院長の本音
ここで補足するまでもない情報だが、母体の体重管理が必要なのにはまず、母体側の理由として、過度な体重増加により帝王切開の麻酔や手術自体がやりにくくなることがある。赤ちゃん側としては、赤ちゃんの体重増加に伴う難産、将来の生活習慣病リスク上昇などの理由がある。一方で、体重が増えなさすぎるのも問題で、2,500g未満の低出生体重児や早産、将来的な糖尿病・高血圧リスクなどがよく話題にのぼる。つまり妊娠中は「体重を適切な範囲で増やす」ことが必要なのであり、このクリニックの指導が適切だとは思えない。
「何かにつけて説教の嵐なので、ネットの口コミは荒れまくっていました。ただ、強烈なふるまいの院長でも、そこは気になるみたいで、私は分娩後、胎盤を出しているタイミングで、『どう? 痛くなかったでしょう? 口コミにいいこと書いておいてね!』と言われました……。産んだ直後にそんな話すんなよ!」

患者に暴言を吐いていても、口コミは気になるらしい
我が道を行く、人目も気にしないタイプかと思いきや、全くそんなことはない小心者というギャップ。そこにほだされてしまうのか、そのクリニックが現在も存続しているのがすごい。
「そうそう。出産後は、急に優しくなるんですよね。入院中のご飯で、たまに院長手作りのおかずが出るのですが……それが超絶品なんです(笑)。指導は厳しいが食事がおいしいという口コミも、そこそこあります」
何をするにも院長の機嫌が優先、患者はトイレも我慢させられる
トータルでは「メンタルが強ければ、悪くない」クリニックという評判でおさまっているそうだ。千絵さんは、第2子も同じクリニックで産んだ。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」というヤツだろうか。しかし、その時にも院長に振り回されることになった。
「産後は産前より優しくなるものの、院長の機嫌が最優先であることは変わらずです。産後の検診直前に急激な便意を催し、トイレに駆け込みたかったのですが、看護師さんたちも『今、先生の機嫌が悪いから我慢して!』と」
便に関するエピソードは以前もあったが、産婦人科領域には排便や便意をコントロールする秘術にたけた医療従事者が揃っているのだろうか?

お説教や嫌味は産後のミルクにも及んだ
そして院長の機嫌が悪いと、小言とイヤミは容赦なく飛んでくる。妊娠中の体重に続き、出産後は子どもの体形にも及ぶ。
「混合ー?※2 そんなにミルクあげたら、将来肥満児確定だね(笑)」
※2:母乳と育児用ミルクを併用する混合栄養のこと(編集部注)
……院長には何か、体重増加に関するトラウマでもあるのだろうか。1990~2000年代頃だと、妊婦の体重増加を制限しすぎた傾向もあったようだが、低出生体重児の増加などにより、現在は緩和傾向になっている。もしかしたらその時代で、知識のアップデートが止まっているタイプなのかもしれない……が、それだけでは済まない強烈な体験談だった。
蛇足だが、筆者は妊娠中、「これ以上増えないように!」という、ギリギリラインまで体重が増加した。千絵さんが出産したクリニックだったら追い出されていたに違いない。
山田ノジル
フリーライター。女性誌のライターとして美容健康情報を長年取材してきたなかで出会った、科学的根拠のない怪しげな言説に注目。怪しげなものにハマった体験談を中心に、取材・連載を続けている。著書『呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル』(KKベストセラーズ)ほか、マンガ原作や編集協力など多数の作品がある。 X:@YamadaNojiru















