性欲 スイッチ

「セクシュアルプレジャー」の話をしよう #06

気乗りしないときには「性欲スイッチ」をONに! 鉄板のファンタジーをもとう

今回は「性欲スイッチ」を入れる方法を考えますが、基本的にスイッチを“必要としている”人向けの文章です。
性欲がないならないで、無理にスイッチを入れなくてもいいじゃないか、という意見はごもっとも。そんな方はcrumiiの別の記事を読んでください。

スイッチが必要なのは、どのような場面でしょうか。たとえば、「あんまり気乗りしないけど、今日はパートナーからの求めに応じたほうがいい」というシチュエーション。これが日常的にある人も、少なからずいるはずです。
お互いが100%欲求が高まっているときにセックスするのは、たいへん望ましい形です。でも、つき合いたてのカップルならともかく、性欲の波はなかなか一致しないのが現実ですよね。
そんなとき、「私はそんなにしたくないから、今日はナシ!」という判断は尊重されるべきものですが、双方ともに同じことをすれば、すれ違いがつづき気づけばレスに……という未来はそんなに先のことではないでしょう。レスを避けたい人は、お互いの「セックスしつづけるんだ」という意志と、歩み寄りが必要です。

●スイッチを入れるのは、前向きな選択

「性欲スイッチ」を入れ、応じるのは、歩み寄りのひとつです。
気乗りしない、でも応じることに決めた。そんなとき、ただ受け身になって、気持ちよくない、もしかすると不快ですらある時間を過ごすか、スイッチを入れることで自分も愉しむか。後者は、十分に前向きな選択だといえるのではないでしょうか。
自分で火をつけた性欲が、ふたりで触れ合ううちに“追い焚き”されることもあるでしょう。こうなるとその欲求は、ふたりのあいだで生まれたものと考えていいと思います。

さて、スイッチの入れ方。
性欲は“本能”だと思われがちですが、人間にかぎっては、社会的・文化的・心理的など多様な要素が複雑に絡みあったものです。

性欲 スイッチ
photo: PIXTA

●体質よりも、社会的影響

世界保健機関(WHO)は、セクシュアリティを「性の健康や快楽を含む、人間としての基本的な側面」であり、生物学的な要素に加えて「ジェンダー、アイデンティティ、役割、性的指向、官能性、親密さ、愛情」などが組み合わさるものと定義しています。
性欲とは、単なる身体の働きではないということです。「生まれつき性欲が薄い」という表現をよく聞きますが、体質だとか遺伝だとかいったものだけでは説明できません。
同じ恋愛関係でも、相手が変われば性欲の度合いは違いますし、場合によってはまったく湧かないこともあるでしょう。さらに、同じ相手であっても、関係のあり方や距離感によって、強く欲望を感じるときもあれば、逆に弱まることもあります。そこには、個人の気持ちやコンディションだけでなく、置かれている環境や社会的な立場といった要素も大きく影響します。
性欲とはことほどさように、流動的で変化しやすいものなのです。

●あなたの鉄板はなんですか?

性欲スイッチを入れる、もっともシンプルな方法は「エロいことを想像する」です。
あまりに直截的な言い方なので、もうちょっとていねいにすると、「自分の“鉄板”な性的ファンタジーを用意し、必要に応じて思い起こし、性的興奮を喚起する」です。
「性的ファンタジーが思いつかない」という人もいるでしょう。当連載#04で紹介しましたが、セルフプレジャーのときに何を思い浮かべるかを尋ねたところ、女性の回答トップは「特にない」だったという調査報告があります。

性的ファンタジーもまた、性欲と同様に誰もが生まれつき持っているものではなく、社会や環境によって形つくられていくものです。
たとえば浮世絵では、ときに女性の足首がエロティックなものとして描かれます。ふだん着物の裾に隠れているくるぶしがチラっと見える――。その無防備さが、特別なものを目撃したスリルや罪悪感を見る人に抱かせ、性的興奮を喚起します。
一方、現代社会では女性のファッションで足首が見えるようものはめずらしくないため、性的興奮の対象にはなりにくいですよね。

浮世絵 セックスアピール
photo: PIXTA

●ヒントはたくさんあります。

何が「セクシー」と感じられるかは、社会や文化の影響を大きく受けます。人は、その社会で「エロい」とされているものに刺激を受け、欲望が動き出すことも多いのです。もちろん、人それぞれに独特な趣味や好みもあるでしょう。めちゃくちゃマニアックな趣味の人もいます。
「自分には性的な想像力がないのでは」と思う人こそ、まずは、いまの社会で「エロティック」とされる表現や場面にヒントを求めてほしいです。

そして、私たちの身の回りにはヒントが詰まったものがたくさんあります。映像に活字にコミックなどなど、性的刺激を提供するコンテンツです。
ざっと眺めて、何か琴線に触れるものはないか、探してみる。タイトルに惹かれる、絵柄が好き、出演者が好み……きっかけはなんでもいいんです。それを、ひとまず味わってみる。気に入れば、「どこがよかったのか」に留意しつつ、くり返し味わう。もしくは似たような作品を探すなど、範囲を広げていく。
逆に、ピンと来なかったら、そこはさっさと切り上げて別のものを探します。「違うかも」というのも、大事な情報だと思います。

●好きなものを掘る感覚で探して!

どこからはじめていいかわからない人には、女性が発信するコンテンツからはじめることをオススメします。女性向けAVや、女性作家による小説・コミックはいまや数えきれないほどあります。比較的、見る側の心理的安全性を考慮したものが多いと思います。
また、どうしてもポルノ作品に抵抗がある人は、一般的な映画や小説、日常のなかのちょっとした仕草に、目を向けてみませんか。子どものころに読んだ少女漫画のワンシーンが心に残っている、という人も多いはず。そうした小さな記憶や取っ掛かりを大事にして掘り下げてみると、思わぬ性的ファンタジーにたどり着けることもあるでしょう。
これって特別なことではないですよね。ジャンルはなんであれ、好きなものを掘っていくときには、同じことをするのではないでしょうか。「なんかいいな」というちょっとした想いから入口に足を踏み入れ、気づけばハマってる。推しの周辺情報なども集めたりして、世界が広がっていく。
そうして見つけた、あるいは気になった性的ファンタジーは、自分だけのものです。誰に話さなくてもいいのです。もちろん、パートナーにも。自分の感覚をたしかめる小さな実験のように、遊び感覚で試してください。

 

三浦 ゆえ

編集者&ライター。出版社勤務を経て、独立。女性の性と生をテーマに取材、執筆を行うほか、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(宋美玄著、ブックマン社)シリーズをはじめ、『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る小児性被害』(今西洋介著、集英社インターナショナル)、『性暴力の加害者となった君よ、すぐに許されると思うことなかれ』(斉藤章佳・にのみやさをり著、ブックマン社)、『50歳からの性教育』(村瀬幸浩ら著、河出書房新社)などの編集協力を担当する。著書に『となりのセックス』(主婦の友社)、『セックスペディアー平成女子性欲事典ー』(文藝春秋)がある。

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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